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2039年1月某日

某県 某所



晴天だ。こんな日だってのに・・・。


いつも通り学校へと向かう足取りは少し、ほんの少しだけ重かった。

だが、自分で決めたことだ、後悔はしてない、いつものように皆に振舞おうと心に言い聞かせた。

この日が、これまで築いてきた沢山の友達と現実世界で会う最期の日になった。






-この数ヶ月後、僕は死んだ-







2038年10月某日

10:22


「じゃあ、この高校でいいんだな、岳斗?」

父が尋ねる。

「もちろんだよ!!また、東京に住めるんだよね。」

僕は問い返した。

父が頷く。

その瞬間、僕は歓喜の声を揚げた。また、東京に住める・・・。それだけでも嬉しかった。


来年の4月から僕の父は、会社の本部がある東京都へ転勤となる。

そのため、周辺の高校の下調べをしていたのだ。

僕の両親はあまり都会が好きなほうでは無かったが、僕の熱烈な[都会への思い]を熱弁したおかげで、引越しを決意したようだ。


なぜ父と母は都会が好きでは無いのか、僕はよくわからない。

確かに電柱は乱立してるし、空気も悪いし、人口密度高いし・・・。

で、でも、僕は都会がすきだ。

え?理由?

・・・。

今思えば、なぜ僕は都会が好きなのかよくわからなかった。なぜ好きなんだろう・・・。


11:25


なぜ都会が好きでは無いのか、父に聞いてみることにした。


「え、理由?んー・・・。」

父は考え込んだ表情で下を向いている。少し、戸惑っているように見える。

やはり、僕と同様によくわからないのか・・・。

父はしばらくその態勢でいたが、深刻そうな顔をして口を開いた。


「岳斗、お前に話しておきたいことがあるんだ。」

え?と思わず驚きの表情が零れる。

「実はな・・・父さんは・・・」



父がそのことを話そうとした直後、母が突然口を挟みこう言った。


「あのことはまだ言わない方がいいわ・・・。」

あのこと?一体どういう意味だ?


「確かにそうだな・・・。このことは、また今度話そう。まぁ、東京にいけばいずれ分かるだろうし・・・。」

ますます訳が分からない。東京にいけば何が分かるんだ?そもそも両親は何を隠してるんだ?

このことが気になり、その日の夜はあまり寝れなかった。








あの日から約3ヶ月。今日は引越しをする前日、最後の登校日だ。

重い足取りのまま、ついにここまで来てしまった・・・。

僕の中学時代の3年間を過ごした、思い出の沢山詰まったこの中学校の校門に。

せめて・・・せめて卒業式だけでも一緒に出たかった・・・。

だが父の仕事の都合上、そうもいかなかった。


早々と挨拶を済ませ、いつもの授業が始まる。

だが周りの空気はいつもと違っていた。

それもそうだ。

僕は今日までこのことを誰にも言ってないからだ。友達をあまり悲しませたくなかった。

だがクラスにとっては、突然ムードメーカー的存在を失ってしまったのだ。ざわめくのも無理は無い。

こんな空気のまま午前、そして午後の授業が終わってしまった。

HRは授業とは違い、静かに終わった。


校門を出ると、今までの思い出が一斉に飛び出して来た。




小学4年生のときに引っ越してきた僕はあまり元気なほうでは無く、どちらかといえば物静かな性格だった僕は、友達も少なかった。まあクラスの奴らは物凄く社交的で、僕の性格を知りながらも声をかけ続けてくれた。このときはまだ元都会っ子のプライドを持っていたからあまり混じろうとは思わなかったけど。


クラスメイトと接していくうちに、徐々にだが生活に慣れていった僕はあっという間にクラスの中心人物となった。

自分でも言うのも少し抵抗があるが、頭脳明晰だった僕はすぐに人気者となったのだ。

そのことが原因で同じクラスの男子と喧嘩になったことも、今ではいい思い出だ。

中学生になってからも僕の人気は衰えることは無く、今日までずっとクラスの中心に立って活動してきた。



色々思い出しているうちに気持ちがこみ上げ、涙が出そうになった。

さすがに校門の前で涙を流すわけにはいかない。

僕は急ぎ足で家へと戻った。

本当はもっと話をしたかった。

親友にお別れも言ってないし、

好きだったあの子にだって気持ちを伝えてないんだ。


校門からだったら間に合ったかもしれない。

だけど・・・。

もう・・・遅かった。




次の日

8:02


「じゃあ、行くか。」

父はそう言うと、車のエンジンをつけた。

もう・・・お別れなのか。

僕はまた、涙が溢れそうになった。


あっという間に僕が6年暮らしたこの街が遠ざかっていく。

気のせいだろうか。きっとそうだろう。

遠くの方で、あいつが笑顔で手を振っているように見えた。

あいつが休日のこんな時間に起きているはずが無い。


だが、もう気のせいだっていい。

せめて、自分の心にけじめを・・・。



僕は車の中で精一杯手を振った。今できる最高の笑顔で。





あいつとは、また別の形で再会することになる。

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