堂満視点【2】
教頭が頼りなさそうな手で思いっきり体育館の扉を開けた。
扉は鈍い音をたてて、徐々に横に広がっていった。
ふいに横に顔を見ると由利がにたにたしながら天井を見上げていた・・・どうやら未だに夢見心地らしい。
そして、扉が全開した。
見慣れた内装。
見慣れた壇上。
見慣れた生徒達
・・・すべてがいつも通りであった。
ただ一つ、違うことが起きた。
先ほどまでにたにたと夢見心地に笑っていた由利の顔が一気に引きつったのだ。
とても真っ青としていて、ただ一点を見つめているようにも見えた。
さっきの笑顔が嘘のように、由利は震えだし
「嘘でしょ・・・嘘だ・・・」と小さくつぶやいていた。
私は咄嗟に「由利・・・?」と声を掛けた。
とても驚いたようで彼女はきゃっと小さい悲鳴を上げこちらを向いた。
「ど・・・どうしたの、由利?」私はもう一度声を掛けた。
「い・・・・いえ・・・べ・・・別に・・・」と言っていたが明らかに動揺していた。
思えば、あの時以来私のことを「堂満先生」と呼ぶようになったり、
教師はおろか生徒達にも敬語を使うようになり、由利は変わっていった。
今思うと、このとき由利の変化に気付いていたにも関わらず、私は何も出来なかった。
それは今でも悔やんでいる。
・・・その始業式の七ヶ月後に、鶴瀬 由利はD組のある生徒を殺害してしまうのだから。