大翔視点【1】
- 一年前 警視庁 第三取調室 -
「頼む!俺の代わりに犯人になってくれ!」
親友の言葉をぐるぐる頭のなかでひっかき回しながら、俺は警視庁の取調室にいた。
親友の士郎から電話が来たのは、昨日の深夜のことだった。
「大変なことになった。すぐに俺の家に来てくれ」といった内容だった
その声は、ひどく慌てている様子だった
俺がすぐに駆けつけると、そこには士郎と血まみれで倒れている士郎の父親がいた。
「どうしよう!俺、父さんを殺しちゃった!!」
士郎第一声は驚くべきものだった。
士郎の母親は、重い肺がんで市内の病院で入院している。
今は、父親と二人きりで生活していると聞いたが・・・
その父親の噂は俺もよく聞いていた
「酒癖が悪い」だの「息子に暴力をふるっている」だの
そして俺は、いつも士郎から父親の暴力について相談を受けていた
俺はいつも「専門の機関に相談したほうがいい」と返すのだが
士郎は「おまえしかいない、大翔だけに俺の気持ちをわかってほしい」と取り合ってくれない
俺はそのとき、決まっていつも「そんなんじゃ、しろー。いつか親父さん殺しちゃうよ?」と冗談めいて言っていた
そして、俺が予想していたことがついに現実になってしまった
士郎は涙を浮かべながら、血がついた手を俺の両手にあわせ、すがってきた
「どうしよう・・・俺まだ、病気の母さんがいるのに・・・ここで捕まるなんてやだよぉ・・・」
俺は、何があったのか士郎に問いただした。
きっかけは、些細な喧嘩だったらしい。
母親のことだか、酒癖のことだとか、詳しくは覚えていない。
だが、父親は相変わらずに士郎へ暴力をふるったらしい。
殴られて、倒れたときに、台所の包丁も一緒に落ちてきた。
そして、再度殴りかかってきたときに、包丁を向けて、その反動で・・・・・・
そこまで説明すると、士郎は泣き崩れてしまった
「ヒロトぉ・・・俺、どうしたら・・・」
士郎の顔を見てると、俺も悲しくなる。
俺は何かできないか必死に頭を巡らせた。
しかし、殺人を偽装するほどの技術力をもってないし。
これでも士郎の父親は有名なコンピューター会社の部長で
一日無断欠勤しただけで部下が心配するだろう
旅行鞄に死体を詰めて、どこかの海に流すなんて芸当はできない。
そのとき士郎ははっと顔を上げて、俺にこう言った。
「頼む!俺の代わりに犯人になってくれ!」
最初、親友が何を言っているのか俺は理解できなかった。
「お願いだよ!俺にはそれしかないんだっ!ヒロト!お願い!!」
泣き崩れて、ぼろぼろになった顔で、俺の親友は残酷なことを口にしていた・・・
そして今、現在に至る
俺は士郎の言うことを承諾して、自ら犯人だと名乗り出たのだ
「親友のことが心配で、家を訪れたら、ちょうどその親友が暴力をふるわれていたので、助けようとして台所の包丁を振り回したら、その父親の腹部に偶然刺さってしまった」という口実で
俺は、その時士郎が来ていた血まみれの水色のパーカーを着ていた
「さすがに血痕はごまかせない」と士郎が言い、服を交換したのだった。
俺が、取調室の内装を見渡していると
ガチャリと扉の音を立てて、中年の刑事が入り込んできた。
「鶴瀬 大翔くんだね?」と聞いてきたので
「はい。」と無愛想に返した
その刑事は「傘津 智哉」と名乗った。