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限界  作者: りらいず
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鶴瀬視点【6】



私はこの時からすでに覚悟を決めていました。




どんな手を使ってでも彼を裁いてやる・・・と。



教師がこんな台詞言っていたらおかしいですよね?

でも、それくらい私は桐生君に恨みがあったのだと解釈して下さい。




「そろそろ動機を話して下さい」ですか?



では、少し手短ですが話すことにしましょう。




・・・私は桐生君に両親と弟を殺されたのです。






 驚きましたか?

「桐生君がそんなことをするはずがない」?




ではあなたは桐生君の何を知っているのですか?

彼が毎晩ドラッグに溺れているのをあなたは知っていましたか?

彼の部屋の棚には沢山の薬品がならんでいるのを知っていましたか?



知らないでしょう?




人間という生き物は、どこかしらに『穴』・・・つまり秘密があるのです。

どう隠そうとそれはいつか見つかってしまう。

現に、彼の『穴』はすでにもう私によって見つかっているのですから。





彼が私の両親と弟を殺したのは紛れもない事実です。

証人は私自身です。





当時教育実習生だった私は夜遅くまで学校にいました。

そして深夜二時。家に帰宅すると変わり果てた母親、父親、弟の姿がありました。



皆、どこかしらを果物ナイフで刺されていました。




私は驚きのあまり泣くことも、救急車を呼ぶことも出来ませんでした。





そのとき、台所から物音がしたのです。




覗いてみると、中学生であろう少年が台所の窓から逃げだそうとしている瞬間が私の目に映りました。その少年の口にはナイフが咥えられていました。


少年は咄嗟に私に襲いかかってきました。




私は応戦しましたが、腕や顔を数カ所切られてしまいました。



ほら、私の頬にうっすらと線が残っているでしょう?あれはその時の傷です。

よく男子が「若いくせにほうれい線がある」なんて言っていましたが、これは自然に出来たものじゃないんですよ?




話がそれましたね・・・

そのあと抵抗する私に諦めたのか彼は台所の窓から逃走しました。



その数時間後、私はようやく警察と救急車に連絡を入れることができました。


おそらくショックのあまり気を失っていたのでしょう。


私は警官にありのままを話しました。

そして容疑者はすぐに捕まりました。




それが桐生 春哉です。





彼は私がその夜見た少年でした。

それは間違いありません、この目でハッキリみたのですから。



しかし、彼は数日で家に帰らされました。




なぜだかわかります?彼の父親がこの事件そのものをもみ消したのです!



彼・・・桐生君の父親。あなたもご存じですよね?




そうです、桐生 常勝つねかつ県知事です。


もし県知事の息子が殺人鬼・・・なんて報道されたら、県知事としてはおしまいでしょうね。



まあ、その前に父親としてオシマイですが。



だからこそ、彼はもみ消したんですよ。

何て恐ろしい父子!



この『もみ消し』があってから、この事件は一切報道されることなく、捜査も打ち切りになりました。



中には必死になって犯人を追おうとしていた立派な刑事さんもいらっしゃったみたいですが、その独断の捜査が警察のお偉い様に気付かれて、解雇させられてしまったようです。


なんともおかしな話だと思いませんか?真実を探ろうとして警察を解雇させられるなんて・・・



 とにかく、そうしてこの事件は忘れられていきました。




でも、私は忘れません。

忘れることが出来ません。



でも・・・まさかその犯人である少年を殺してしまおうなんて考えてもみなかったんですよ、当時は。



でも、まさかその約一年後・・・初めて担任するクラスの生徒の中に彼が居たなんて・・・

運命を司る神様がいたなら恨みますよ。




始業式の時・・・悪戯にも私が初めてみた生徒が桐生君だったんです・・・

彼も見返しましたどんな顔をしていたと思います?




いたずらっ子がする何とも『愛くるしい』笑顔を私に見せたんですよ。

勝ち誇ったかのような顔!

もう俺を裁けない!

そのような顔を私に!



私は負けたんだあの少年に、あの少年に私は負けたんだそう思うともう私が私でいられなくて・・・・・・・・・・・!!!!!!







 あ、係官さん・・・

「少しおちつけ」ですか。

すみません、つい気が動転して・・・私らしくもありませんね。



ゴホン。

とにかく私の『動機』おわかりいただけましたか?

「よくわかった」?

「かわいそう」ですか。



同情して下さるのですね、ありがとう。

もっと早く、あなたという生徒に出会えていればよかったですね。


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