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限界  作者: りらいず
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堂満視点【3】

-五月十日 U学園中学校 二年D組 教室前 朝のHR-



 今日は、由利が再びこの教壇に立つ日だった。

由利が心配だった私は、C組のHRを塚木先生に任せて、D組のHRを見ることにした。



あの始業式の日、由利はHRの途中突然倒れた。

由利を病院に車で送ったのは私だった。



本当は生徒達の混乱を防ぐため救急車は呼ばず、校長先生がすることになったのだが、あの始業式のときのひきつった由利の顔が気になって、

その理由を聞きたくて、私に送らせてくれるよう校長に願い出たのだ。



 病院のベッドに移されて数十分後、由利は目を覚ました。



「由利・・・!心配したよ・・・」

私はまずそう由利に言った。



「堂満・・・先生・・・私は一体・・・?」


「HRの途中で急に倒れたんだよ!」






私がこう言った瞬間、再び由利の顔は引きつり、そして大きな悲鳴をあげた。

暴れ出したりもした。



こんな由利を見たのは初めてであった。

私は由利を抑えることに必死で、そのとき発していた由利の言葉に反応することは出来なかった。






そんなことを思い出しているうちに、由利が廊下を歩いて来ているのが見えた。


きっちりとアイロンのかかったスーツに、黒いズボン。


いつも(私は嫌いなのだが)白いふわふわしたスカートを着ている彼女にしては珍しく上下黒できめていた。



「由利・・・!」


私は駆け寄ったが、由利は驚きもせず、歪んだ表情を見せるわけでなく、ただ無表情に





「堂満先生。おはようございます」





と挨拶した。あの時病室で見せた、引きつった顔は何処にもない。




ここから、彼女の『計画』は着々と進んでいたのであった・・・






 この数秒の『挨拶』のあと、彼女はD組の扉を開けていた、なんのためらいもなく。



「皆さん、始業式の日。そしてこの一ヶ月間あなたたち大切な生徒を結果的に放ってしまって、本当に申し訳なく思っています。この一ヶ月の空白を取り戻すため、あなたたちとどんどん繋がり逢っていきたいと思っていますので、どうぞ一年間よろしくおねがいします。」




 『事務的な挨拶』

・・・私はそう思った。



昔の・・・いつもの由利なら「倒れちゃってごめんねぇ~」

くらいのおどけっぷりを見せるはずなのだが、そんな様子は何処にも見えない。



彼女のこの時の姿は『聖職者』そのものだと私は感心していた。

言葉は固いものの目の奥には何処か安らぎがあり、まるで母親のような印象を持った。






しかしこの目は、憎き殺人者の目であることを、私はまだ知らなかった・・・

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