義妹に婚約者を盗られそうになりましたが、姉と婚約者が絶対に許さないと言っております。
「どうしてわたくしが閉じ込められるのよ。出してよ。お願いだから出してっ」
ラルク公爵家で、ロンディアナが部屋の中でドアを叩きながら叫んだ。
どうしてなんで?わたくしの何がいけないというの?
泣きながら、ロンディアナは思考を巡らせる。
いつもいつもいつも、父は義妹のリアーネばかり可愛がっていた。
義母のマリアばかり愛していた。
わたくしは愛されない。
父は言ったのだ。
「お前はバレント公爵に嫁ぐことになる。バレント公爵はお前より20歳年上だが、若い後添えを探していた。だからお前が行くがいい」
「この家の跡継ぎは?わたくしが第二王子殿下を婿に迎えて継ぐのではないのですか?」
「可愛いリアーネが継ぎたいと言っているのだ」
「嫌です。わたくしがこの家を継ぎます」
「聞き分けのない。部屋に閉じ込めておけ。馬車に押し込めて嫁入りさせる」
部屋に閉じ込められたのだ。
ロンディアナ・ラルク公爵令嬢は、ラルク公爵家の次女だ。父が再婚し、愛人だったマリアとその娘リアーネを屋敷に迎え入れ、リアーネに後を継がせると言い出した。
ロンディアナ18歳。リアーネ17歳である。
リアーネは柔らかい金の髪に青い瞳、可愛らしい顔立ちをし、貴族なら誰しも行く王立学園でも人気があった。
それに比べて、ロンディアナはくすんだ金の髪に青い瞳。
リアーネに比べたら地味だったのだ。
それでも、学年で10位に入る程にロンディアナは勉強した。
ロンディアナは頑張ったのだ。
長年の婚約者ジュエル第二王子の為にも。
彼との仲は良好だった。
ロンディアナは明るく前向きなジュエル第二王子が大好きだ。
結婚するのを楽しみにしていた。
それなのに、部屋に閉じ込められた。
家では誰も味方がいない。涙が零れる。
わたくしはこのまま、20歳も年上のバレント公爵の元へ、嫁入りしなくてはならないの?
愛するジュエル様の婚約者をリアーネに変更されて……
部屋に閉じ込められて泣いていた。
恐らく、嫁入りする日までここから出して貰えないだろう。
ドアの外から義母マリアと、義妹のリアーネの声がした。
マリアがせせら笑うような声で、
「あら、惨めだこと、部屋に閉じ込められて、貴方にふさわしい嫁ぎ先でよかったわねぇ。ロンディアナ」
リアーネの笑う声が、
「お姉様。安心して頂戴。私がこの家を継いであげるわー。お父様の血を引いた私なら、この家を継ぐのに問題ないから。お父様がジュエル第二王子殿下を婿入りさせるって言っているわ。婚約者の変更だって、可愛らしい私の方がジュエル様も喜ぶに決まっているし。お義姉様の大好きなジュエル様を貰ってあげる」
その時、ドアの外から別の声がした。
「あら、お義母様。リアーネ。随分とロンディアナを虐めているのね」
美しい金髪碧眼の女性が扇を手に深紅のドレスを着て、二人を睨みつけていた。
二人は硬直したように、女性を見て震えあがった。
マリアは慌てたように、
「グランディア、貴方、何故、戻って来たの?」
「そうよ。お義姉様っ」
グランディアはマリアに向かって、
「様をつけなさい。わたくしは王太子殿下の婚約者。もうすぐ王太子妃になるのよ。随分とわたくしが王宮にいる間に、勝手をしていたみたいね。ロンディアナを部屋に閉じ込めているのはどういうことかしら」
マリアは慌てたように、
「この家を継がせるのは可愛いリアーネがふさわしいかと。きっとジュエル第二王子殿下もリアーネの方がふさわしいと思っておりますわ」
リアーネも頷いて、
「私の方が可愛いし、美しいし、お勉強はイマイチだけど。でも、ジュエル第二王子殿下は私の方が好きだと言っていたの。だからお義姉様」
グランディアの背後から、金髪碧眼の整った顔立ちの、ジュエル第二王子が現れた。
思い切り、マリアとリアーネを睨みつける。
「私がいつ、お前の方が好きだと言った?夢でも見ていたのではないか?全く不快だ。ところで、何故、ロンディアナが部屋に閉じ込められている?私の愛しい婚約者を」
ラルク公爵が慌てて走って来て、
「グランディア、お前、戻って来たのか?」
「ロンディアナが心配で帰って参りましたわ。お父様。これはどういう事かしら?」
「いや、ロンディアナにはふさわしい男に嫁がせてだな。リアーネにこの家を継がせようと」
「リアーネに?勉強は下から数えた方が早いリアーネに?血が繋がっているのも恥ずかしい位、出来が悪いリアーネに?このラルク公爵家を継がせるなんて。お父様。頭にクモの巣でも張っておいでですの?」
「いやそのっ」
ジュエル第二王子は、三人に向かって、
「扉を開けろ。今すぐにだ」
扉が開けられた。
ドアの外のやりとりを中から聞いていたロンディアナ。
嬉しかった。
ジュエル第二王子と、姉が助けに来てくれたのだ。
「ジュエル様。お姉様」
ジュエル第二王子は、ロンディアナを抱き締めて。
「愛しのロンディアナ。怖かっただろう?こんな所に閉じ込められて。もう大丈夫だ」
グランディアは、三人に向かって、
「この始末、どうつけましょうか?王家が決めた婚約者を勝手に変えるなんて」
ジュエル第二王子も、
「それ相応の罰を与えねばならないな」
ラルク公爵は床に頭を擦り付けて、
「お許しを。申し訳ございませんっ」
「さぁどうしてくれようか。そこの屑女どもも、罰を与えないとな」
マリアとリアーネは震えあがった。
リアーネは目をうるうるさせながら、
「可愛い私に罰を与えるだなんて。ジュエル様。私の事を愛していますよね」
「どこをどう間違ったら、こういう思考になるのか」
グランディアをジュエル第二王子が見やれば、グランディアは、
「これからはわたくしの監視下に置きます。お父様。結婚まで、こちらの屋敷で過ごすわ。ロンディアナを守る為に。いいですわね」
ロンディアナは、姉グランディアに、
「困ったことがあったら、すぐにわたくしに言わなくては」
「お姉様が王太子妃教育で大変なのが解っておりましたので」
「貴方はわたくしの大事な妹。守るのは当然だわ」
グランディアは、ロンディアナを抱き締めた。
ロンディアナは思いだす。
母が亡くなった時に、抱き締めてくれたのは姉だった。
「これからはわたくしが貴方のお母様の代わりになるわ。だから、わたくしが貴方を守るわ。ロンディアナ」
「有難うございます。お姉様」
二人で手を繋いで、母を見送った。
父は頼りにならない。
ずっと愛人マリアと生ませた娘リアーネを別宅に囲っていたのだから。
母が亡くなってすぐに愛人マリアと結婚し、マリアとリアーネが屋敷にやってきたのだ。
ヴァリド王太子殿下の婚約者だったグランディアは忙しく、ついには王宮で泊まり込んで王太子妃教育を受けねばならず、その間に義母マリアと義妹リアーネは増長したのだ。
ロンディアナは気が弱くておとなしかったから。
ロンディアナは思った。
守られるだけではいけない。
姉グランディアの為にも。
愛するジュエル第二王子の為にも。
バレント公爵への嫁入りはリアーネが行くことになった。
リアーネより21歳年上の男性で、あまり評判がよくないのだ。
前の妻は病で亡くなったと言っていたが、いや、その前の妻も病で……
リアーネは泣き叫んだ。
「嫌ですっーー。絶対に行きたくない。そんなところに嫁に行ったら私、殺されるわ」
マリアも頷いて、
「可愛いリアーネをそんなところに嫁入りなんて貴方達は鬼なの?」
ロンディアナはきっぱりと、
「わたくしをそこに嫁入りさせようとしたでしょう。今更ですわ。お父様が決めて来た縁談です。しっかりと公爵家の娘として嫁いで頂戴」
「お願いっ。お義姉様。私が悪かったですっ。許して下さいっ。お願いですから」
あまりにも泣いて嫌がるので、ロンディアナは、
「改心するなら、この縁談をお断りするわ。その代わり、しっかりと勉強をして頂戴。いいわね」
リアーネは泣きながら頷いた。
こんな義妹でも血は繋がっている。
ロンディアナは冷酷になれなかった。
グランディアに言われた。
「貴方はまだ甘すぎるわ。絶対にリアーネは裏切るわよ。気を付けないと」
姉の言う通り、まさか裏切られるとは思わなかった。
ジュエル第二王子が訪ねて来た。
ロンディアナが応対しようとしたら、メイドに呼び止められて、その隙にリアーネが客間に行ったようで。
「きゃぁ。ジュエル様に襲われたの。いきなりドレスを脱がせて。私がいくら可愛いからって」
客間からドレスを乱して飛び出して来るリアーネ。
ジュエル第二王子は慌てたように、
「私はソファに座っていただけだ。いきなり自分でドレスを脱いで。私は潔白だ」
マリアとラルク公爵が慌ててやってきて、マリアが、
「こうなったら責任を取って貰いましょう。やはり、リアーネとジュエル様は結婚して貰って、この家をリアーネが継ぐの。よい考えでしょう」
リアーネも泣きながら、
「責任取って下さるわね。私、辱めを受けたのですもの」
ラルク公爵も頷いて、
「そうだ。そうしよう。それが一番だ」
ロンディアナが、
「それがどうしたと言うのです。ジュエル第二王子殿下。王家の影、つけていらっしゃいますか?」
「ああ、勿論。まだ私は王家の人間だからな。婿入りまでは王家の影がついて守っているはずだ」
「でしたら証言して貰いましょう」
グランディアが満足そうにロンディアナを見つめている。
天井から声がした。
「リアーネ・ラルク公爵令嬢が部屋に入った途端、ドレスを自分で脱いで悲鳴をあげました。よってジュエル第二王子殿下は何もしていません」
リアーネは叫んだ。
「嘘よ。そんなの嘘よーーー」
ジュエル第二王子は、
「王族の私を陥れようとした罪は重い。不敬罪で牢に入る事になるだろう。ラルク公爵夫妻も共謀した事で、罪は同罪だ」
ラルク公爵もマリアも真っ蒼になった。
「お許しを。私はリアーネにこの家を継がせたくて」
「私もですっ。自分の娘は可愛いでしょう」
ロンディアナは怒りを感じた。
そんなにわたくしの事が憎いの?
わたくしやお姉様を排除したくて仕方がないの?
だったら貴方達は……いらない。
わたくしの愛するジュエル様を陥れようとしたのですもの。
だったら、わたくしは……
「この人達はわたくしとお姉様の家族ではありませんわ。牢へ入れて下さいませ。ジュエル様を陥れようとしたのですから」
「そうだな。そうさせて貰おう」
使用人達に命じて、三人を縛り上げる。
王宮から騎士達が迎えに来た。
三人を簀巻きにし、猿轡を噛ませて馬車に乗せる。
グランディアがロンディアナを褒めてくれた。
「貴方も成長したわね。安心してラルク公爵家を任せられるわ」
「お姉様、愛するジュエル様をわたくし失いたくなかったものですから」
ジュエル第二王子が背後から抱きしめて来て、
「有難う。助かったよ。愛しているよ。ロンディアナ」
「愛しております。ジュエル様」
心から安堵するロンディアナであった。
ヴァリド王太子殿下と、ジュエル第二王子、グランディア、そしてロンディアナの四人でお茶をする。
ヴァリド王太子は、
「今回はロンディアナが無事でよかった。ああ、あの連中か?しばらくは地下牢から出られないだろう」
ジュエル第二王子は、
「出てきたら領地の片隅にでも送ろうか。女どもは修道院に入れてもいい」
グランディアが、
「出会った頃はこうして四人でお茶を飲みましたわね。これからも、時々、お茶を飲みません?」
ロンディアナが姉の提案に、
「素敵ですわ。わたくしはそうしたいのですが、王太子殿下とジュエル様の許可がおりましたら」
ヴァリド王太子とジュエル第二王子は頷いた。
誰も味方はいないと思っていた。
でも、姉が、そしてジュエル第二王子が駆けつけてくれた。
空は青空。
姉と、愛する人と、その大切な人と。
これからも、こうして四人でお茶をしたい。
心から幸せを感じるロンディアナであった。
「あら、奇遇ね。貴方も来たの?」
「愛しいロンディアナを地獄に突き落とそうとした連中を私が許しておくとでも?」
「そうね。毒を使いましょうか。あの人達に日の光を見せる事はないわ。地獄に突き落としてあげる」




