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この定義はどこから来たのかーーダークファンタジーの源流

 それでは、第一話で提示した要素がどこから来たのかを見るのと同時に、それが実はメチャクチャ厳しい基準である事にも触れていこう。


 五つ全てを満たす作品の例と、なぜそう言えるのかの簡易的な説明をまずは示そう。なお、和訳が存在する物は邦題も載せる。


The Second Apocalypse (Scott Bakker)2003年


① 善悪二元論:完全崩壊(善という概念が因果系から切断された世界)


② 世界構造:形而上レベルで倫理が腐敗


③ 不可逆代償:犠牲は一切回収されない


④ 救済非保障:救済概念そのものが疑似幻想


⑤ 暴力非娯楽化:読者に快楽を与えない描写設計




The Black Company (Glen Cook)1984年


① 善悪二元論:傭兵視点により恒常的に否定


② 世界構造:支配者が変わるだけで何も是正されない


③ 不可逆代償:死・裏切り・喪失は固定


④ 救済非保障:正しい行動が報われた前例がない


⑤ 暴力非娯楽化:戦争は疲弊と徒労として描写




Bas-Lag Cycle (China Miéville)2000年


 「バス=ラグ」三部作


① 善悪二元論:政治・種族・階級すべてが曖昧


② 世界構造:制度・経済・生態系が倫理的に腐敗


③ 不可逆代償:選択は必ず取り返しのつかない結果を残す


④ 救済非保障:革命・抵抗が成功しても救われない


⑤ 暴力非娯楽化:嫌悪と後味の悪さを残す描写




Between Two Fires (Christopher Buehlman)2025年


① 善悪二元論:信仰と正義が結果を保証しない


② 世界構造:神話的災厄が是正不能


③ 不可逆代償:犠牲は救済に変換されない


④ 救済非保障:祈りも善行も救済に結び付く理由が無い


⑤ 暴力非娯楽化:ホラー寄りの不快な描写




 では、次に、この条件がどれだけ厳しいのかを例と共に見ていこう。誰もが知るあの作品でさえ、ガッチガッチに固めたこの条件を満たせていない。




A Song of Ice and Fire (George R. R. Martin) 1996年


 「炎と氷の歌」


④:善行が結果に影響しうる理由と余地が世界構造として残されている。失敗や破滅をもたらす事はあっても、無価値だとはされない。因果応報も存在はしている。つまり、「報われる理由が構造的に無い」とは言い切れない。


⑤:復讐・逆転にカタルシスが存在している。




The First Law (Joe Abercrombie) 2006年


⑤:暴力が皮肉と共に娯楽として消費される。




Malazan Book of the Fallen (Steven Erikson) 1999年


 「マラザン斃れし者の書」


④:救済は保証されないが理由(慈悲)が存在している。慈悲が作中では一貫して、世界の残酷さに対抗しうる唯一の態度/原理として語られる。救済は殆どされないが、「救済される理由」が世界の構造として残されている。




The Broken Empire (Mark Lawrence) 2011年


 「壊れた帝国」


④が後半で変質(意味と方向性の獲得)。第一巻限定なら条件を満たしている。




 どうだろうか?


 「え? あの作品がダークファンタジーじゃないとか、気は確かか?」


 そう思われた読者は100%に違いない。かくいう私も自分の正気を疑っている。そこで、だ。惜しくも外れている上記作品も「準適合」として認め、まとめて「ダークファンタジー」とした上で国内のラノベと比較をしていこう。


(グリムダークの金字塔とも呼ばれるThe First Lawや、誰もが認めるマラザン、マーティン先生の作品を外していては、対象が限定的に過ぎる)


 つまり、最も適合させにくい④と⑤に関しては作品ごとに見ていき、他条件内と比較し、良しとするかを見極めていく。一切のカタルシスを完全に排除しなくても十分に要件を満たしたり、「報われる理由」が完全に無いとは言い切れなくても立派に純度の高いダークファンタジーは存在する。


 また、あらゆるジャンルは後付けである。他とは明確に異なる物が出てきて初めて、名が必要になるからだ。そのため、定義を狭めれば狭める程、ただ一つの作品に収束されてしまう。それでは論じる意味もあまりない。


 次のエピソードでは、国内で「ダークファンタジー」として認められているラノベの代表例を選び、ここまでに示してきた必須要素との比較を行っていく。個別要素や個別作品の深掘りはその後になる。


 繰り返し言うが、「ダーク風」である事が悪いなんて事はない。国内の読者に向けて作られた作品を海外の基準に合わせる必要も無い。合わせなくても海外でも流行っている作品は多い。ただ、ファンタジー作品として認められたからと、海外でも「ダークファンタジー」として認識されているのかは別問題である。


 余談だが、私が最も好きな海外のダークファンタジーはThe Black Companyである。ダークファンタジーと言われれば真っ先に思い浮かぶのがそれだ。故に、無意識にThe Black Company基準で計ってしまう節は否めない。

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