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『先生、仕事ですか?恋ですか?』――女性が苦手なTL作家は、なぜか私にだけ距離が近い   作者: 古東 白


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8話

 綾野先生の新作小説を書くための生け贄――ではなく。

ネタ出しお手伝いのために、週に最低一度はお手伝いに行く事に決まった。


「先生、お茶入れました。そろそろ休憩してもいいんじゃないですか?」


「ん、そこ置いといて」


先生の邪魔にならない位置に置いておく。

執筆作業はリビングのテーブルでした方が捗るらしい。


テーブルの上のノートパソコンと向かい合う先生は、控えめに言っても素敵だ。

きゅっと口を引き結び、悩む表情を見せながら、カタカタとキーボードを叩く。



先生の邪魔をしてはいけないと、じっと静かに見守り態勢だ。

あれだけ初日のインパクトが強かったので、無茶振りされるかとドキドキしていた私。

実際はそんなこともなく、意外と静かに過ごしていた。


「――はああ、終わりっと」


カタカタ、カタカタ――カチ


「先生、お疲れ様です」


綾野先生を労い、立ち上がり――


「いっ!!」

正座をしていた足がジンジンと痺れきっている。


「――君、なにやってんの?」

呆れた顔で見下ろされた。


「あ、足が痺れてしまっ……ああ!!」

床に顔を伏せてプルプルする。


「だから、ソファに座ってろって言ったんだけど――ほら足だせ」

突っ伏している私の傍に寄ってきて手を差し出した。


「俺もよく足痺れて、姉貴に解してもらったから――自分でいうのもなんだけど、結構上手いぞ。我慢するのは、俺は褒めないからな」


先生にそう言われておずおずと足を差し出す。


「優しくしてください」

じんじんと痺れて痛いのかなんなのか、自分の足ではない感覚だ。


「お前っ、その言い方やめろ!」

綾野先生は耳まで真っ赤になって、顔を腕で隠しながら仰け反った。


「あ。変な意味じゃないですから」

ぱたぱたと手を振って弁解する。こちらはいたって真面目なつもりだ。


「何なんだよ、お前は……少し、我慢しとけ」

悪態をつきながらも真剣に私の足のツボをぐっぐっと押してくれる。


しばらくして、ようやく感覚が戻ってきた。


「……俺と姉貴の家は婆ちゃんが厳しくて、男なのに茶道や華道の稽古事ごとで――しょっちゅう足が痺れて姉貴に解してもらったんだ」


ぽそぼそと話す先生。

小さい頃、先生はどんな子供だったんだろう。


「さあ、これくらいかな。どうだ」


「痺れが落ち着きました。先生、ありがとうございます」

正座してペコリと頭を下げる。


「いいんだけど。痺れたのに、何でまた正座してんの?学習してないの?」


あ、いつもの先生だ。

さっき雰囲気が違ったから、ちょっと心配になったのに――何のことはない、通常運転だ。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 


綾野先生の執筆が落ち着いたので、わんこと三人で散歩に出る。


「はあ……寒い、眩しい、帰りたい。……君とわんこで行ってきてよ」

綾野先生はぶつぶつ言いながら、フードを目深に被り背中を丸めて歩く。


「綾野先生、本格的な寒さはこれからですよ。もう少しシャキッと歩けないんですか?ねえ、わんこもそう思うよね」

「ワン!」


まだ10月、しかも今日は小春日和だ。どれだけ外が嫌なの?

呆れて、わんこに同意を求めてしまった。


「綾野先生が、わんこと自分の健康のためにと言ってましたよね。さっさと出発して帰ってきましょうよ」


ボソボソと何か喋ってる。


「何ですか?」

ぐいっと腕を引っ張られ、耳元に先生の吐息が当たる。


「……い、さ……むい」


「は?」

見るとガクガクと先生が震えている。

首に手を当てると熱い。


「熱あるじゃないですか!大変!!」

慌てて先生のマンションに引き返す。

薬箱を見つけて体温計を取り出し、熱を測った。


「38℃ですね……病院行きましょう。インフルエンザかもしれないし」

綾野先生に聞いても返事がない、くたりとしている。


私は先生の私生活の事は分からないので、取り敢えず宮古先輩に連絡した。

宮古先輩はすぐに駆けつけてくれて、先生の保険証やら病院の手配をしてくれた。


「桜ちゃん、悪いんだけど病院に連れていってくれるかしら?綾野先生、時々こうやって熱を出すのよ」

宮古先輩から申し訳なさそうに頼まれた。


「私、子供のお迎えがあって……編集部も手が空いてる人がいないの。お姉さんの詩織さんにも、連絡つかなくてね」


そうだ、わんこがいるってことは詩織さんも来れないということだ。


「分かりました。わんこは一人で平気でしょうか」


わんこをマンションのペットシッターへ預けて、宮古先輩にタクシーをよんでもらう。


「じゃあ、また何かあれば連絡してね」


「はい、診察終わったら連絡します」


かかりつけの病院受付で保険証を出す。


『綾野 咲人』――名前。先生の名前、この漢字なんだ。


「診察ですね。保険証と診察券お預かりします」

「あっ、はい、お願いします」


待合室の椅子で、綾野先生は私にもたれ掛かって目を瞑っている。色白の肌がさらに白くなっていた。


綾野先生がずり落ちないように、手で支えながら様子を観察した。

こんな時に不謹慎だけど、じろじろと顔を眺めてしまう。睫毛が長くて肌が綺麗。

目を閉じていると中性的な美貌が際立つ。


「――様、アヤノサクト様」

「あっ!はい!」


呼ばれて診察。

結果、風邪。


「はあ、インフルエンザじゃなくて良かったです。ただ、栄養不足と睡眠不足だそうですよ。体調管理に気をつけないといけませんね」


「……分かってるよ」


ぶすーっ、とした表情で点滴を受けている綾野先生。


「拗ねないでください」


「……拗ねてはない、ちょっと……自分に腹が立っただけだ」


「自分にですか?」

綾野先生は返事をせず、ぷいっと横を向いてしまった。

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