3話
「まあ、糸谷はそのままの純粋な気持ちでいて、そういう方が俺は好きだよ」
「は、あ、ありがとうございます」
「うん。俺はお前のことを、今、褒めたからな」
ぷいっと横を向く綾野先輩の耳が少し赤くなっていた。
何か、こんなシチュエーション。
前にもあったような――
あっ!あの時だ。
大学の文芸サークルで、毎月一度の各々の小説の批評会。
私の書いた初めての小説はお粗末過ぎて、先輩達からは改善の批評しか貰えなかった。
そんな中、綾野先輩が。
「これ、糸谷が書いたの?」
低評価の嵐にボロボロになって落ち込んでいた私は、綾野先輩に聞かれて蚊の鳴くような声で答えた。
「……はぃ……」
「まだまだ言葉も拙いし、荒削りだな」
あ、やっぱりそうだよね。素人丸出しの文章とか、読めたものじゃ――
「――でも、変に飾り立てずに素直な言葉で書かれていて、俺は好きだよ。書き始めたばかりの、今しか書けない文章だよな」
「え、あ、ありがとうございます!」
勢い良くお礼を言って、頭を下げた。
涙で視界が滲む。
「俺は今お前を褒めたからな。次の話、また読ませろよ」
下げた頭をポンポンと軽く撫でて、綾野先輩は離れていった。
その後、文学部の先輩達がこぞって綾野先輩を囲み批評を頼んでいたっけ。
ただ、女の先輩達にはしばらく睨まれたなあ。
◆ ◆ ◆
「なに、俺を見てなんでニヤニヤしてんの……その顔気持ち悪い」
「……は?」
思わず大学時代にトリップしてたようだ。
ちょっと綾野先輩の言葉に浮かれただけに、ギャップがひどい。
「電話失礼しました。あら、二人とも何かあったの?」
宮古先輩が戻ってきた。
「いいえ、何も!なかったです」
私は何も、という部分を強調した。
「ぶふっ!」
吹き出すイケメン作家。
「何か、仲良さそうねえ。なら来週から大丈夫ね」
「宮古先輩、来週って何かあるんですか?」
宮古先輩は、含み笑いをしながら衝撃発言をした。
「綾野先生のお願いが通ったので、来週から桜ちゃんにお手伝いとして入って貰いますねえ」
「え、まじですか?」
綾野先輩は自分で言ったのにぽかんとしてる。
「その、お手伝いって何をするんですか?」
宮古先輩はちょっと考える素振りを見せた。
「ん~、来週実際見た方が早いと思うわ」
「そうなんですか……」
何だろう、少し、嫌な予感がする。
「糸谷、取り敢えず連絡先交換しよう」
「え、はい」
携帯を出して連絡先を交換する。
「来週から来いよ、糸谷」
綾野先生は、とてもいい笑顔で『よろしく』と言ってきた。
「よろしくお願いします……」
「さて、そろそろ仕事を進めようかな。宮古さん、今日はありがとうございました」
「ふふ、来週から桜ちゃんをよろしくお願いしますね、くれぐれも怖がらせないように」
「ははは、俺は優しいですよ」
「うふふ」
なにこれ怖い、来週何があるの?




