2話
「そうだ、宮古さん。この前の編集部からの紹介の女性もダメだったよ。」
「あら、またですか?」
「そ、シチュエーション頼んだだけなのに彼女面して、俺に迫ってきてさ。断ったら夜中に覆い被さってきて襲われそうになった」
綾野先輩は心底嫌そうな顔をする。
「綾野先生は色気のある人だからね。うちの主人には負けるけど、ふふ」
「あー、はいはいご馳走さま」
宮古先輩は作家の旦那様がいて、ラブラブらしい。
うらやましい、彼氏いない歴はもう3年だ。
「今は、紹介出来るようなアシスタントの女性いないのよねえ」
「そっか、じゃあさ」
綾野先輩はそう言いながら、ちらりとこちらを見て意地悪く笑う。
「糸谷さん、貸してくれないかな?」
「ぴゃっ、はひいい!?」
思わず変な声を出してしまう。
「ぶっ!ひどい顔」
綾野先輩は私の顔を見て腹を抱えて笑い出した。
「綾野先生、女の子の顔を指さして笑うのは頂けないわよ」
宮古先輩は綾野先生を注意してくれた。
「はは……あー、ごめんなさい」
ぺこりと私に頭を下げた。
私は少しむくれたままぷいと横を向く。
「そうねえ。編集部で相談してみるわ」
「宮古さん、よろしくおねがいします」
好青年スマイルでお願いする綾野先輩。
「あ、あの。編集者の仕事ってそういうことも?」
「綾野先生はましな方よ。もっと使い走りや、住み込みの家政婦レベルを求める人もいるのよ?」
「ええ、そうなんですか?」
「俺は優しいぞ。新人編集者の糸谷さん」
綾野先輩はめちゃくちゃ良い笑顔で”優しい”を強調してきた。
「何事も経験よねえ。桜ちゃんも綾野先生なら、大丈夫だと思うのよ」
にこやかに話す宮古先輩。
「あら、電話だわ。少し失礼しますね」
そそくさと電話をしに席を外す。
悪魔と二人きりだ。
「糸谷、編集者になりたかったの?」
予想しなかった、というか綾野先輩に聞かれると思わなかった質問だ。
「……作家を目指してたんですけど、書けなくて」
「なんで書けないの?」
「書いてるうちに気付いたんです。私は書くより読む方が好きだなって」
綾野先輩は黙って聞いてる。
「読む方が好きなので、編集者になって誰よりも先に読みたいという下心と……」
ここで、一拍置く。
「その、作家さん達のお手伝いをしたくて。素敵なお話しを紡いで、産み出してくれる作家さん達の心の支えになれればと」
「ふうん」
「あ、あはは。傲慢ですよね」
プロの作家である綾野先輩の前で変なことを話してしまった。何様?とか言われるかな。思わず下を向く。
「……いいんじゃない?」
「え?」
「糸谷はそういう気持ちで編集者になったんでしょ。
ただ作家とお近づきになりたいとか、こういう話を書けなんて邪な考えはないんだよね」
「もちろんです!」
勢い良く肯定した。
「……声が大きいよ」
耳を塞ぎながら嫌そうに綾野先輩は言った。
「まあ、糸谷らしい理由かな」
綾野先輩は、にやりでもなく、薄笑いでもなく。
ただ微笑んでいた。
急に高鳴る私の心臓に、私自身が驚く。
なに……これ。




