17話
「前に、お二人に雰囲気が似てる人に助けられた事があったんです。性別違うんですけど。綾野先生のメイクした顔を見て、思い出したんですよね」
高校生の時、好きな作家のサイン会の会場にたどり着けずに迷子になった。
運良く、サイン会を知ってる人に連れていってもらったのだ。
「その時のお姉さんが、天使のように綺麗で、とても優しかったんです」
うっとりと思い出す。
「たくさん話をして、水族館とプラネタリウムにも行ったんですけど……」
詩織さんがそこに反応した。
「水族館とプラネタリウム?」
「天使様が連れていってくれて――」
「なに、その天使様って?」
なぜかイライラしながら綾野先生が聞いてきた。
詩織さんは興味津々だ。
「天使ね、そんなに綺麗で優しかったの?」
「はい。初対面で自然に話せたの初めてで――別れ際、この世界で、もう会えないって言われたんですけどね」
詩織さんと、綾野先生の視線が交わった。
ため息をついた綾野先生が、こう言った。
「俺だって、桜を水族館に連れていっただろ。気が合うと思わないのか?」
上から目線で、思わず目が点になる。
詩織さんが吹き出して、肩を震わせる。
「違いますよ!天使様に誘われた時は、私も行きたかったんです。でも、先生は――」
「俺だってちゃんと誘ったぞ!あれは、お前が人の話を聞かないから――」
「水族館でお揃いの、私だって一緒に選びたかったのに!」
「一緒に?」
うっかり口走った内容に、私は両手で口を覆う。
先生を見上げて。
「聞かなかった事に……」
「俺が、そうすると思うか?」
そうですよね。
恥ずかしすぎて、後ろを向いて顔を下に向けた。
すると、先生は私の正面に回り込んできた。
いつもより、優しい声が降ってくる。
「ほら。顔、上げろ……俺、お前のお願いは、ちゃんと聞く」
先生の手が、私の顎をそっと持ち上げる。
触れた指先が熱く感じた。
顔をあげると、先生の頬がチークより赤くなっている。
「先生……次は、ちゃんといいますから」
「さくら」
先生と真正面から視線が合った。
「あの~二人とも、インタビューまだ終わってないわよ」
そこに、突然宮古先輩が割り込んできた。
……私と先生、周りを見ていなかった。
「いい雰囲気のところで、ごめんなさい。あと少し、綾野先生にコメント貰わないといけないのよ」
すごーく申し訳なさそうな顔をされている。
詩織さんは、真っ赤な顔でぷるぷると震えながらこちらを凝視している。
「ああ!すみません!!先生っ、ほら、インタビューの続きですって」
居たたまれなくて、先生の背中をバシバシ叩いた。
叩かれた先生は、そのまま座り込み長い長いため息を吐いた。
インタビューにふらりと戻る先生を目で追いながら、冷えたペットボトルを頬に当てる。
「はー……あつかった」
「さーくーらーちゃん」
背後から両肩を掴まれる。
「はっ、はい!」
「ねえねえ、水族館のお土産って?サクから何もらったの?」
詩織さんに聞かれたので、カバンからお財布を取り出してキーホルダーを見せた。
「先生が選んでくれたんです、そのキーホルダー」
「あら。サクらしいチョイスね。桜ちゃんの色じゃない」
え、あ。
そういうこと、なの?
「何も言わないのがサクらしいけど、そんな細かいところまで察しろって無理よね」
詩織さんは、あの子変なところ拘るの。と柔らかく笑う。
「私も読書好きなのよ。サクはね、私の誕生日に自分の本と綺麗な栞をくれたわ。『詩織』だからって」
桜ちゃんも大目に見てあげて。と、頼まれた。
先生。
何でそんなふうに、私の心を揺さぶるんですか?




