16話
「意外と少ないんですね。何冊も出しているので、恋愛も多いのかと思いました」
「ははは、恋愛作家が全員そうとはかぎらないでしょ」
先生、目が笑ってない。
「では、次の質問です。恋愛相手に求めるものは何ですか」
真島さん、先生が塩対応でも全然平気なのね。さすがプロ。
「求めるもの?俺は求めませんよ。好きになる時は、そのままの彼女ですから」
その答えのあと、先生がこっちを見て笑ってる。
目が合って、私が言われたわけでもないのに、顔が熱くなってきた。
先生から、目が逸らせない。
「ふふ、素敵ですね。デートをするなら、どこへ行きたいですか」
ここまで、順調に進んでいる。
スタジオはライトが点いていて、なんだか暑い。
喉が乾いてきたので、水を口に含む。
「デートなら、水族館かな。彼女とイルカショーを見て、水を思いっきりかけられたいです」
「っぶ!!げほげほげほ」
水を飲みかけてた私は、思い切りむせ込んだ。
「桜ちゃん!大丈夫!?」
跪いた私の背中を詩織さんがさすってくれる。
鼻に水が入って痛い!
「……さくら、お前」
なにしてんだコイツ?って、目はやめて下さい先生。
貴方のせいです。
「あと、少々突っ込んだ質問ですが。綾野先生が真剣にお付き合いされた人数をお伺いしたく――」
明らかに嫌な顔をする先生。
パシャッ!
カメラが向けられると微笑む。
「そうですね。俺は小説を書いています――読者の皆さんの豊かな想像力にお任せしますよ。――こんな答えではだめですか?」
とーっても、綺麗なスマイルひとつ、カメラに向けた。
撮影が始まってから――ううん。実はその前から、頭の隅に引っ掛かっている事がある。
綾野先生の顔は、大学で出会う前から、どこかで見たことがある。
――カメラのフラッシュが、綾野先生の肌を白く淡く光らせた。
その瞬間、思い出した――ああ、彼女だ。
私の憧れ。
もう会えない、思い出の人。
ひととおり、インタビューと撮影を終えた先生に飲み物を渡す。
「先生、お疲れ様です。ちゃんと見ていましたよ」
「そうか。俺のインタビューどうだった?」
「――水族館の話以外は、完璧かと思いますよ」
あれはだめじゃない?
具体的過ぎるでしょう。想像力の余白足りないじゃない!
「俺は真面目に答えたのに。さくらは、どこが気に入らなかった。――ああ、クラゲの方が良かったのか?」
その言葉に顔が火照る。
「どっちも、私と見た場所じゃないですか!」
「うん。さくらとデート行ったとこ」
にっと笑う綾野先生。
私は金魚みたいに口をパクパクとして、でも、なんて言っていいか。
――言葉が出てこない。
「あらあ、二人ともデート行ったのね。いいわね。青春だわ」
「姉貴、青春とか青臭い言葉にしないでくれ」
詩織さんが、ニマニマとデートという言葉に突っ込んできた。
居たたまれない。
あ!聞いてみないと。
「綾野先生、詩織さん。お二人に妹さんとか、もう一人従姉さんいませんか?」
私の大切な友人の話を切り出した。
彼女の事を思い出すと、心の奥がふわりと温かい。




