11話
今日は昨日よりは文字数あります!
よろしくお願いしますm(_ _)m
取材当日。
待ち合わせは先生のマンション最寄りの駅前だ。
もう、来てるかな?
きょろきょろ見回すが、それらしい人はいない。
「さくら、待ったか?」
「……」
「さくら?」
「あ、いえ。……私も、今来ました」
驚いた。
後ろから声掛けられたのもそうだけど、今日の先生の姿。
オフホワイトのフード付きパーカーを着て、細身のデニムパンツに黒のハイカットスニーカー。
そこに、黒の小さいショルダーバッグという出で立ち。
アクセサリーは、シルバーの細フレームのメガネだ。
いつもの無頓着さと違って、きちんと計算された『ラフ』なスタイル。
ずるい、普通に、格好いい。
私はついつい、離れてしまった。
こんなビジネスライクな格好で、貴方の横に立てと?
ほら、周りがチラチラ見てるでしょ。
「さくら、どこいくつもりだ?」
じろりと睨まれてしまう。
「あ~……いや、側にいると比べられるので」
「はあ?何いってんの、ほら行くぞ」
手をぐいっと引っ張られる。
「ま、待ってください!どこ行くんですか?」
「お前、話しを聞いてなかったの?水族館だよ。水族館」
「――え?は?いつ??」
「この前、家に来た時」
この前?
家に行った時を思い出そうとした――水族館。
『なあ、さくら。初回のデートってどこが王道?』
『あー、映画館とか、遊園地、水族館とかですかね?今調べてみます』
『お前だったらどこ?』
『私なら水族館ですかね?』
『ふーん』
あった!
そんな会話したわ。
てっきり、小説の話かと思っていた。
思い出して、一人でドキドキしていると。
「ほら、行くぞ取材に」
「しゅ……ざい?」
先生は頷いた。
そのまま、呆然としている私の手を引っ張り歩き始めた。
「ちょっと遠出するぞ。ちゃんと調べてあるから安心しろ」
言われるまま電車に乗る。
先生の声はいつもより明るく、テンション上がってるのが丸分かりだ。
水族館かあ。一体どんな顔して調べてたのかな。
先生は電車に乗ってる間、水族館のどこに重点をおいて選んだか語り始めた。
ちょっと鬱陶しい。
電車移動は振動と暖房が気持ち良く、思わずうとうとして、先生に寄りかかった。
最寄り駅に着く前に起きたけど、先生も私に凭れて寝ていた。
うっかり降り過ごすところだった。危ない。
水族館の入り口に着き、二人で大きなゲートを見上げる。
「で、さくら。ここから水族館デートってどうすんの?」
真面目な顔でこちらを見つめる先生。
「あ、ハイ。要約すると、小説のための水族館デートの取材ですね?」
「経費で計上するから、領収書もらえよ。要約もなにも、『取材』って伝えなかったっけ?」
先生はさらりと言ってのけた。
「……そうと気付いていたら、普通にラフな格好で来てたのに」
ぶつぶつと小声で文句を言う。
「何か言った?俺、水族館とか久しぶりなんだよね」
「いえ、何でもないです……先生は水族館はいつぶりですか?」
「高校の時が最後かな?ほら、行くぞ」
意気揚々とチケット売場へ向かう先生。
なんだかんだ楽しみなんじゃない?
――実は、私も水族館は好きだから。テンションがじわりと上がってきてる。
「待ってください!チケット割引があるか調べてみます」
「ふーん?それ、面倒じゃないの」
「いえ!お金は大事です。浮いたら他に回せるでしょ?」
ケチケチしてると言われようが、浮いたお金でコーヒー1本でも買えた方が嬉しい。
割引クーポンを使ってチケットを買い、入館した。
冬間近とはいえ、太陽の柔らかい日差しの射す外とは違い、館内はひんやりしている。
水面の光がぼんやりと天井まで青く揺れている。
「中はやっぱり涼しいですね。もう1枚着てくれば良かった」
「そういや、何でその格好にしたんだ?」
不思議そうに聞かれた。
今さら!?というツッコミを入れるのを我慢した。
「まあ、さくらっぽくて良いけど」
いや、貴方のせいですから!
心の中では先生に文句を言いながら、館内の展示に目を向ける。
「さくら、あれ見ろよ!魚の大群……へえ、光に反射してキラキラ綺麗だな」
「ははっ!チンアナゴだって、面白いなこの魚」
イライラしていたけど、先生の無邪気な反応にすっかり毒気を抜かれてしまった。
「先生、本当に水族館久しぶりなんですね。話を盛ってるのかと思いましたよ」
「俺が嘘言うと思ってんの?」
私の発言に、ムッとした表情を見せる。
でも、次の展示コーナーに行くと、また目をキラキラとさせる。
「少し歩き疲れたな。クラゲのコーナーにベンチがあるぞ。そこで座ろう」
正直、申し出はありがたかった。
履き慣れてないブーツで来たから、ちょっと足が痛い。
2人でクラゲを見ながらボーッと休憩する。
人は通りすぎるけど、私たちみたいに立ち止まる人は少ない。
「クラゲ。気持ち良さそうに揺蕩ってるよな。なにも考えないで、ああやっているのかな」
小さい頃は親の仕事について海外で暮らしてたことを教えてくれた。
「大きくなって勉強の問題が出てきて。親父の実家でばあちゃんに預けられたんだよ」
詩織さんが言い掛けてた『おばあさま』かな?
「 そしたら、家業継ぐのは俺にすると言い出して、稽古三昧。俺も反抗期になった時、姉貴に頼んで、ばあちゃんの嫌がる事を――」
その瞬間。
ぐうううう――
「……すみません」
「ブハッ!!あは、はははは!!」
真っ赤になる。
恥ずかしすぎて両手で顔を隠す。
「そんなに笑わなくても!」
「わ、悪い……ふっ、ふふ」
私がふて腐れていると、綾野先生はこちらに手を伸ばしてきた。
「ハリセンボンみたいで、可愛い」
ふっと笑いながら、私の頬を撫でる。
撫でられた瞬間、ぞくりと背中が震えた。
嫌じゃない。ただ、くすぐったくて――顔が熱くなる。




