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第6話 裁かれる理由

 王都への道は、静かだった。


 馬車の揺れは一定で、窓の外には整えられた街道が続いている。

 舗装され、管理され、秩序だった景色。

 ——ああ、なるほど。ここは“制度の中心”だ。


「逃げる気はないんだな」


 向かいに座る王都医療局の調査官が、淡々と言った。

 名前は聞いていない。聞く必要もなかった。


「逃げても、治せる場所が減るだけだ」

 俺は答える。


 彼は一瞬だけ目を伏せた。

 それが同情なのか、計算なのかは分からない。


「君のやっていることは危険だ」

 調査官は言った。

「結果が出るからこそ、なおさらな」


「……それは、褒め言葉か?」


「警告だ」


 馬車が止まる。

 高い城壁。白い石。王都だ。


 通されたのは、医療局の会議室だった。

 長い机。整然と並ぶ椅子。

 人の命を話すには、あまりに無機質な場所。


 既に数人が座っている。

 年配の医師。魔法使い。役人。


 ——全員、俺より“正しい立場”にいる人間だ。


「では始めよう」

 議長席の男が言う。

「非正規医療行為に関する審議だ」


 俺は立ったままだった。

 座るよう促されもしない。

 それだけで、立場は明確だ。


「まず確認する」

 議長が続ける。

「君は、医療局の許可なく、治療行為を行ったな」


「行った」


「禁止命令が出た後も?」


「行った」


 ざわり、と空気が揺れる。


「理由は」


 俺は、一拍置いた。


「目の前で死ぬ人間がいた」


 それだけだ。

 嘘も、誇張もない。


「感情論だな」

 誰かが呟く。


「医療は感情でやるものではない」

 年配の医師が言った。

「君の治療は、鑑定不能。再現性が証明されていない」


「再現性はある」

 俺は言った。

「ただ、鑑定できないだけだ」


「それを、証明できない以上——」

「証明したいなら、患者を見せればいい」


 一瞬、沈黙。


「それは——」

 議長が言いかけて、止まる。


 調査官が、そこで口を開いた。


「……彼の治療で救われた患者は、確かに存在します」

 場の視線が集まる。

「記録も確認しました。回復魔法単独より、改善率は高い」


 小さなざわめき。


 だが、次の言葉で空気が変わる。


「しかし」

 調査官は続けた。

「それは“彼一人に依存した成果”です」


 その言葉は、鋭かった。


「彼がいなければ再現できない。

 教育できない。

 管理できない」


 俺は、ようやく理解した。


 ——ああ、そういうことか。


「君は、制度に組み込めない」

 議長が言う。

「だから危険だ」


 間違っているとは、言えなかった。

 彼らの論理の中では、正しい。


「君が善人であることは、関係ない」

 年配の医師が続ける。

「善意の医療ほど、事故が起きた時に人を殺す」


 その言葉に、胸の奥が少しだけ痛んだ。


 現代で——

 同じことを言われた記憶が、蘇る。


 救えなかった患者。

 「もっと早く来ていれば」と言われた夜。


「……分かった」

 俺は言った。


 会議室が、少しだけざわつく。


「処分は?」

 俺は続けた。

「どうせ、もう決まっている」


 議長は、短く頷いた。


「王都およびその管轄地域での医療行為を禁止する」

「——追放、だな」


「辺境行きだ」

 調査官が言った。

「医療体制が整っていない地域。

 君が何をしようと、目が届かない」


 ——都合がいい。


 そう言いかけて、飲み込んだ。


「条件がある」

 議長が言う。

「辺境で起きたことは、王都に持ち込むな。

 成果も、理論もだ」


 つまり、

 治せ。でも、広めるな。


 俺は、少しだけ笑った。


「……それで、いい」


 驚いた顔が並ぶ。


「不服は?」

 調査官が問う。


 俺は首を振った。


「ない」

 そして、続ける。

「ただ一つだけ、確認させてくれ」


「何だ」


「俺が辺境で治した人間が、

 また王都に来たら——」


 俺は、調査官を見る。


「その人間を、追い返すのか」


 調査官は、答えなかった。

 沈黙が、答えだった。


 それで十分だ。


「分かった」


 俺は踵を返す。


 会議室を出る直前、

 調査官が小さな声で言った。


「……君の医療が、間違っているとは思っていない」


 俺は振り向かなかった。


「知ってる」

 そう答えただけだ。


 廊下は長く、静かだった。

 王都の中心で、俺は完全に孤立している。


 それでも、胸の奥は不思議と軽い。


 ——もう、迷わなくていい。


 制度に認められなくても、

 必要とされる場所へ行けばいい。


 馬車に乗り込み、辺境へ向かう準備が始まる。


 窓の外、王都の白い壁が遠ざかる。


 そこで俺は、初めてはっきり思った。


 この追放は、罰じゃない。


 これは、

 治すために与えられた場所だ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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