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追放された治療師、回復魔法が効かない患者だけを治していたら王都に呼び戻された件 〜制度に評価されなかった“普通の治療”が、世界の限界を超えるまで〜  作者: 夜凪レン


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第46話 残らなかったもの

 医療局から、アークの名が消えた。


 名簿から。

 通達から。

 会議の議事録から。


 追放ではない。

 解任でもない。


 ただ、

 必要とされなくなった。


 それは、

 悪い終わり方じゃなかった。


 引き継ぎは、簡単だった。


「……これで、最後ですか」


 若い医師が、帳簿を差し出す。


「ああ」


「もう、

 ここでは治療しない?」


「しない」


 迷いはなかった。


 アークは、

 教え子も、後継者も作らなかった。


 それでいい。


 思想は、

 人に残すものじゃない。


 現場に、

 残るものだ。


 医療局を出る日、

 特別な見送りはなかった。


 何人かが、

 軽く頭を下げる。


 それだけだ。


 リーナが、隣を歩く。


「……何も、残らなかったわね」


「違う」


 アークは、立ち止まる。


「残らなかったものが、残った」


 リーナは、少し考えてから笑った。


「相変わらず、

 分かりにくい」


 王都を離れる馬車の中、

 アークは窓の外を見ていた。


 王都は、変わらない。


 流派は続く。

 基準も残る。


 だが、

 唯一の正しさは、残らなかった。


 それが、

 いちばん大事なことだ。


 数日後、

 地方の小さな町。


 医療局と呼ぶには、

 あまりに簡素な建物。


 アークは、

 そこで治療を始めた。


 看板は、出さない。


 名前も、広めない。


 ただ、

 来た人の話を聞く。


「……迷ってるんです」


 若い治療師が、言った。


 この町の医師だ。


「基準はあるんですが」

「どうしても、

 違う気がして」


 アークは、答えなかった。


 ただ、

 少しだけ頷いた。


 それで、十分だった。


 その夜、

 帳簿を借りて、一行だけ書く。


判断理由:

迷いがあったため、

今日は結論を出さなかった


 署名は、ない。


 それでいい。


 アークの医療は、

 どこにも残らなかった。


 だが、

 残らなかったという事実が、

 この世界を縛らなかった。


 それが、

 彼の選んだ結末だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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