第43話 越権
裁きは、淡々としていた。
評議会の小会議室。
傍聴席はない。
必要なのは、
事実と記録だけだ。
「アーク・シグナス」
議長が、名前を呼ぶ。
「あなたは」
「判断医療運用指針に反する治療を行った」
「事実です」
即答だった。
言い訳も、前置きもない。
評議員の一人が、資料をめくる。
「基準外症例への介入」
「事前承認なし」
「単独判断」
「……越権行為だ」
「そうです」
アークは、頷いた。
その態度に、
わずかな戸惑いが走る。
「反論は?」
「ありません」
議長が、目を細める。
「……理由は」
「救えたからです」
短い言葉。
だが、
それ以上でも以下でもない。
「基準がなければ」
評議員が言う。
「現場は混乱する」
「基準は必要です」
アークは、否定しない。
「だが」
「基準が、判断を奪った瞬間」
「それは、医療を超える」
沈黙。
「あなたは」
別の評議員が言う。
「自分を特別だと?」
「いいえ」
アークは、首を振る。
「誰でも、
同じ判断をすべきだった」
「だが、
できなかった」
その言葉が、
空気を刺す。
誰も、否定できない。
「……処分を決める」
議長の声は、低い。
結果は、
予想できていた。
当面の医療判断権停止
基準策定への関与禁止
重いが、
追放ではない。
それが、
評議会の選んだ“妥協”だった。
「異議は?」
「ありません」
アークは、頭を下げた。
会議室を出ると、
廊下がやけに長く感じた。
「……これで」
リーナが、言葉を探す。
「中心から、完全に外れた」
「ああ」
「後悔は?」
「ない」
アークは、同じ答えを繰り返す。
医療局の入口で、
若い医師が待っていた。
「……ありがとうございました」
声は小さい。
「何のことだ」
「基準外でも」
「助けていいって、
示してくれた」
アークは、何も言わなかった。
示したかったのは、
“助けていい”ではない。
迷っていい、だ。
その夜、
医療局の灯りが落ちても、
帳簿は残る。
判断理由。
迷いの痕。
アークの名は、
もう、そこにない。
だが——
基準の外に、
確かに刻まれた。
越権とは、
線を越えることじゃない。
線が間違っていると示すことだ。
その代償を、
アークは、静かに受け取った。
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