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追放された治療師、回復魔法が効かない患者だけを治していたら王都に呼び戻された件 〜制度に評価されなかった“普通の治療”が、世界の限界を超えるまで〜  作者: 夜凪レン


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第42話 救われない者の声

 その患者は、基準に合わなかった。


 年齢。

 症状の進行度。

 回復魔法への初期反応。


 どれも、

 判断医療の対象外。


「……後回しです」


 若い医師が、書類を見ながら言った。


「緊急性は低いと判定されています」


 患者は、

 痩せた中年の女性だった。


 声は弱いが、意識ははっきりしている。


「……大丈夫です」


 彼女は、そう言って微笑んだ。


「皆さん、

 お忙しいでしょうから」


 その言葉が、

 処置室の空気を重くした。


 アークは、入口で立ち止まった。


 呼ばれていない。

 だが、

 見過ごせなかった。


 女性の呼吸は、浅い。

 数値は、確かに基準内だ。


 だが——

 戻ろうとしていない。


 それは、

 数字には出ない兆候だった。


「……話を、聞かせてください」


 アークは、そう言って椅子を引いた。


 医師が、ためらう。


「……規定では」


「責任は、俺が取る」


 短く、はっきり言った。


 女性は、少し驚いた顔をした後、

 ゆっくり話し始めた。


「最近」

「息をするのが、

 怖いんです」


「苦しいというより」

「このまま、

 戻れなくなる気がして」


 それは、

 どの基準にも書いていない言葉。


 だが、

 アークには分かった。


 ——間に合う。


 だが、

 今しかない。


「……治療をします」


 医師が、息を呑む。


「基準外です」


「だからだ」


 アークは、女性を見る。


「今、やる」


 回復魔法を使う。

 強くはない。

 補助程度。


 同時に、

 触れる。

 待つ。


 時間が、ゆっくり流れる。


 女性の呼吸が、

 少しずつ深くなる。


「……あ」


 小さな声。


「息が……」


 安堵が、部屋に広がる。


 助かった。


 確実に。


 その夜、

 記録室で、アークは書いた。


基準外対応

判断理由:患者の主観的恐怖と呼吸の変化

担当:アーク・シグナス


 逃げなかった。


 翌朝、

 呼び出しがかかる。


「……越権行為です」


 評議会の声は、冷たい。


「基準を無視した」


「違う」


 アークは、落ち着いて答えた。


「基準が拾えなかったものを拾った」


「それは」

「基準の否定だ」


「いいえ」


 アークは、首を振る。


「基準の限界を示した」


 評議員の一人が、言った。


「だが、

 全員を救うことはできない」


「知っている」


 アークは、即答した。


「だから」

「選別する前に、

 声を聞けと言っている」


 会議室は、静まり返った。


 誰も、

 女性が助かった事実を否定しない。


 だが、

 それを“許す”理由も見つけられない。


 廊下で、

 リーナが言った。


「……もう、戻れないわね」


「ああ」


「後悔は?」


「ない」


 アークは、はっきり言った。


「彼女は、

 救われなかった側になるはずだった」


「それを、

 見過ごす方が、

 医療じゃない」


 窓の外、

 王都の人波が流れている。


 基準は、

 世界を整える。


 だが、

 声は、整えられない。


 そして——

 医療は、声から始まる。


 その事実を、

 アークは、もう隠さなかった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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