第39話 対話という戦場
会場は、王都中央評議堂だった。
医療評議会の臨時公開討論。
名目は「判断医療の運用に関する意見交換」。
だが、
実態はもっと露骨だった。
——どちらが“正しい医療”か。
傍聴席には、
医療従事者、貴族、記録官、
そして数人の市民。
誰もが、
勝敗を見に来ている。
アークは、演壇の端に立っていた。
中央には、
流派の管理者。
反対側には、
回復魔法側の代表。
三者三様の立場。
司会が、声を張る。
「まずは、
判断医療の有効性について——」
管理者が、穏やかに語り始めた。
「我々は、
回復魔法を否定していません」
その言葉は、
もう聞き慣れている。
「ただ」
「過剰な魔法依存が、
患者の自然回復力を奪う例もある」
資料が示される。
数値。
グラフ。
説得力は、十分だ。
回復魔法側の代表が、反論する。
「魔法は、多くの命を救ってきた」
「一部の失敗を理由に、
全体を疑うのは危険だ」
正論だ。
会場が、
わずかにざわつく。
司会が、アークを見る。
「……では、
アーク・シグナス氏の意見を」
視線が、集中する。
アークは、一歩前に出た。
「私は」
彼は、静かに言った。
「どちらが正しいかを、
決めに来たわけではありません」
ざわめき。
「正しさは」
「状況ごとに変わります」
「問題は」
「正しさが、責任を消してしまうことです」
管理者が、眉をひそめる。
「我々は、
責任を持って——」
「違う」
アークは、言葉を切る。
「基準を守った時」
「あなたたちは、
誰の判断かを言わない」
「だから、
誰も間違えない」
「……それは」
「誰も、学ばない」
会場が、静まり返る。
回復魔法側の代表が、
慎重に言う。
「では、
どうすればいい」
アークは、少し考えてから答えた。
「迷いを、公開する」
驚きの声。
「成功だけを共有しない」
「失敗も、保留も、
名前付きで残す」
「それは——」
「怖いでしょう」
アークは、はっきり言った。
「だから、
誰もやらない」
管理者が、声を強める。
「それでは、
市民が不安になります」
「不安は」
アークは、即座に返す。
「隠しても、消えません」
「見えない不安が、
一番危険です」
沈黙。
司会が、議論を締めに入る。
「……結論は、
本日出さない」
それでいい。
勝たなくていい。
納得されなくていい。
だが、
疑問は残った。
討論が終わり、
会場を出ると、
空気が重い。
「……消耗した?」
リーナが、隣で言う。
「ああ」
「でも」
「言った」
それだけで、
十分だった。
その夜、
王都のあちこちで、
小さな会話が生まれる。
「基準って、
誰が決めてるんだろう」
「失敗って、
記録されてるのか」
対話は、
戦場だ。
血は流れない。
だが、
確実に削れる。
それでも。
疑問が残る限り、
正義は、暴走しきれない。
アークは、
その役目を果たした。
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