第34話 介入する理由
会う約束は、簡単に取れた。
流派の管理者——あの男は、
拒まなかった。
「話し合いは、必要だと思っています」
その言葉に、嘘はなかった。
場所は、治療団体の簡素な応接室。
清潔で、整っている。
責任を感じさせないほどに。
アークとリーナが向かいに座り、
男がその正面に座る。
「まず」
男が口を開く。
「亡くなった件について、
深く哀悼の意を表します」
形式的だが、間違ってはいない。
「ですが」
男は続ける。
「我々は、間違ったことはしていません」
アークは、即座に否定しなかった。
「……なぜ、そう思う」
「判断したからです」
男は、迷いなく言う。
「回復魔法に切り替えれば」
「別のリスクが生じていた」
「だから、
結果は不運だったが、判断は正しい」
それが、彼らの論理だった。
「俺が介入する理由は」
アークは、静かに言った。
「そこにある」
男が、眉をひそめる。
「判断は」
アークは続ける。
「免罪符じゃない」
「不運で片づけるための言葉でもない」
男は、反論しようと口を開くが、
アークは止めない。
「判断を切ったなら」
「その結果に、最後まで関与する責任がある」
「助からなかったとしても」
「その理由を、言葉にして残す責任が」
沈黙。
「あなたたちは」
アークは、視線を逸らさない。
「正しさを使って、恐怖から逃げている」
男の顔が、わずかに歪む。
「恐怖?」
「救えなかった時」
「自分が間違ったかもしれないと
向き合う恐怖だ」
それは、
誰もが持つ感情だった。
男は、しばらく黙った後、言った。
「……では、あなたなら」
「俺なら」
アークは、遮らず答える。
「迷ったと書く」
男が、目を見開く。
「切れなかった」
「怖かった」
「間に合わなかった」
「それを、記録として残す」
リーナが、静かに補足する。
「責任は」
「成功した時だけ生じるものじゃない」
「失敗した時に」
「誰が、どう判断したかを残すこと」
男は、ゆっくり息を吐いた。
「……それでは、
人は動けなくなります」
「違う」
アークは、首を振る。
「それで、ようやく動ける」
「自分の判断を」
「誰かの正義に預けなくて済むから」
男は、しばらく考え込んだ。
「……あなたは」
「止めに来たわけじゃない」
アークは、はっきり言った。
「壊しに来たわけでもない」
「ただ」
「歪みを、減らしに来た」
男は、視線を落とす。
「……それは、
我々のやり方を否定することになる」
「違う」
アークは、静かに言った。
「やり方じゃない」
「姿勢だ」
沈黙が、長く続いた。
やがて、男が言った。
「……記録の仕方を、
変えることはできるかもしれません」
それは、
小さな譲歩だった。
だが、
確実な一歩でもある。
応接室を出た後、
リーナが言った。
「……止められた?」
「いいや」
「でも」
「逃げ場は、塞いだ」
正しさは、止まらない。
だが、
無責任には、させない。
それが、
アークが選んだ介入だった。
——歪みを、減らす。
その覚悟が、
ようやく形になった。
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