表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された治療師、回復魔法が効かない患者だけを治していたら王都に呼び戻された件 〜制度に評価されなかった“普通の治療”が、世界の限界を超えるまで〜  作者: 夜凪レン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/40

第33話 切り捨てられる命

 知らせは、朝だった。


 医療局の当直記録に、短い追記がある。


患者死亡

判断医療適用後、容体急変

回復魔法への切り替え間に合わず


 簡潔で、感情のない文字。


 アークは、その一文から目を離せなかった。


「……来たわね」


 リーナが、静かに言う。


「ああ」


 場所は、王都南区。

 流派の治療団体が定期的に回っている地区だった。


 アークは、現場へ向かった。

 呼ばれたわけではない。

 自分の意思だ。


 小さな住居。

 室内は、妙に整っていた。


 寝台の上に、

 年配の男性が横たわっている。


 ——もう、動かない。


「……判断しました」


 そばに立つ若い治療師が、

 震える声で言った。


「回復魔法を使わず」

「体の力を信じるべきだと」


 アークは、何も言わずに近づいた。


 触れる。


 ——遅くない。


 いや、

 遅くなる前に、切ってしまった。


「……助かった可能性は」


 リーナが、低く聞く。


「あった」


 アークは、はっきり言った。


 空気が、凍る。


「……でも」


 治療師が、必死に言葉を探す。


「判断医療では——」


「判断医療は」

 アークは、静かに遮る。

「責任を消す言葉じゃない」


 治療師の目が、揺れる。


「触らない判断は」

「“何もしない”ことじゃない」


「その後の変化を」

「見続ける責任がある」


 治療師は、唇を噛みしめた。


「……でも、成功例が」


「成功例は」

 アークは、視線を逸らさない。

「失敗を帳消しにしない」


 家族が、奥の部屋から出てきた。


 誰も怒鳴らない。

 誰も責めない。


 ただ、

 泣いている。


 アークは、頭を下げた。


 自分が、判断したわけではない。

 だが、

 判断という言葉を渡したのは自分だ。


 外に出ると、

 空がやけに高く見えた。


「……これは」


 リーナが、声を落とす。


「免罪符ね」


「ああ」


 アークは、拳を握る。


「判断した」

「だから仕方ない」


 その言葉が、

 命を切り捨てる刃になる。


 夕方、

 流派の管理者——あの男が現れた。


「……残念な結果でした」


 言葉は丁寧だ。

 だが、距離がある。


「だが」

 男は続ける。

「我々は、最善を尽くしました」


「違う」


 アークは、初めてはっきり言った。


「最善を尽くしたかどうかは、結果じゃなく過程だ」


 男は、眉をひそめる。


「判断は、間違っていなかった」


「間違っていた」


 言い切った。


「触らない判断をした後」

「見続けなかった」


 沈黙。


「判断は、切った瞬間に終わらない」

「むしろ、そこから始まる」


 男は、しばらく黙っていた。


「……それは、理想論です」


「違う」


 アークは、静かに言う。


「それを現場に伝えなかった俺の落ち度だ」


 その言葉に、

 男は言葉を失った。


 夜、

 医療局に戻ったアークは、

 帳簿の一行を書き換えた。


判断後の経過観察不足

判断の責任所在が不明確


 自分の手で、

 歪みを記録する。


 リーナが、隣で言った。


「……ここから先」


「逃げない」


 アークは、即答した。


「止めるか」

「歪みを減らすか」


「どちらかを選ぶ」


 窓の外、

 王都の灯りが揺れている。


 正しさは、

 人を救う。


 同時に、

 人を切り捨てる。


 だからこそ、

 責任から目を逸らしてはいけない。


 ——次は、

 介入する理由を、言葉にする番だ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ