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第32話 正義としての医療

 評価は、思ったより早く動いた。


 王都の医療評議会が発行する週報に、

 小さな記事が載った。


回復魔法に依存しない新たな治療団体、

市民から一定の支持を得る


 名前は出ていない。

 だが、誰のことかは分かる。


「……載ったわね」


 リーナが、紙面を指で叩く。


「ああ」


 記事の文面は、慎重だった。

 断定しない。

 否定もしない。


 だが、その慎重さが、

 正義の余地を生んでいる。


 翌日から、

 医療局内の空気が変わった。


「判断医療なら」

「魔法を使わなくていいんですよね」


 そんな言葉が、

 何気なく交わされる。


 回復魔法を専門とする治療師が、

 眉をひそめる。


「……それは、極端だ」


「でも、無駄に魔法を使わない方がいいって」


「“無駄”かどうかを、誰が決める」


 議論は、すぐに感情を帯びる。


 治療の話ではない。

 立場の話だ。


 昼休み、

 アークは、廊下の端でその様子を見ていた。


 誰も、間違ったことを言っていない。

 それが、一番厄介だった。


 回復魔法は、確かに万能ではない。

 だが、

 判断医療も万能ではない。


 どちらも、

 条件付きの正しさだ。


 午後、

 医療局主催の小規模な意見交換会が開かれた。


 流派側からも、代表が呼ばれている。

 第31話で会った、あの男だ。


「私たちは」

 男は、落ち着いた声で言った。

「回復魔法を否定しているわけではありません」


 聞き覚えのある言い回し。


「ただ」

「使いすぎは、患者の力を奪うこともある」


 会場が、静まる。


「それは、事実だ」


 誰かが、呟いた。


 反論は、弱い。

 なぜなら、部分的に正しいからだ。


 次に、回復魔法側の医師が立つ。


「だが、魔法がなければ救えない命もある」

「それを軽視するのは、危険だ」


 空気が、張り詰める。


 男は、微笑んだ。


「軽視していません」

「私たちは、判断しているだけです」


 ——判断。


 その言葉が、

 会場を二分する。


 判断する者。

 判断される者。


 境界線が、見え始める。


 アークは、黙っていた。


 ここで口を出せば、

 どちらかの“旗”になる。


 それは、望んでいない。


 意見交換会が終わった後、

 バルドが、低く言った。


「……正義になり始めている」


「ああ」


「正義になると、止まらない」


 アークは、頷いた。


 正義は、

 反論を“悪意”に変える。


 夕方、

 医療局の外で、患者同士が口論しているのを見た。


「判断医療の方が、安全だって聞いた」

「回復魔法は、体を壊すんだろ」


「そんなわけ——」


 言い争いは、

 どちらも不安から来ている。


 アークは、通り過ぎた。


 説明しない。

 止めない。


 まだ、介入の段階じゃない。


 だが——


 夜、

 帳簿を見ながら、アークは確信する。


 これはもう、

 治療の話ではない。


 価値観の争いだ。


 正しさが、

 正義になった瞬間。


 その先に待つのは、

 選別と排除だ。


 アークは、静かに息を吐いた。


 ——ここからが、本番だ。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

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