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第28話 歪んだ再現

 異変は、報告書から始まった。


 簡潔すぎる一枚。

 成功例だけが、きれいに並んでいる。


「……嫌な並びだ」


 アークは、目を細めた。


 そこに、失敗の文字はない。

 迷いも、躊躇も、切った判断もない。


 結果だけだ。


「別部署が動いてる」


 リーナが、低い声で言った。


「判断基準を“簡略化”したらしい」


 嫌な言葉だ。


 簡略化。

 要約。

 最適化。


 どれも、現場を知らない人間が好む言葉。


 案内された処置室には、

 慌ただしい空気が漂っていた。


「……アーク」


 若い医師が、血の気の引いた顔で立っている。


「うまくいかなかった」


 寝台の上には、

 中年の患者。


 呼吸が浅い。

 顔色が悪い。


「何をした」


 声は、自然と低くなる。


「……回復魔法を抑えて」

「様子を見て」

「それから——」


 途中で、言葉が途切れる。


 アークは、患者に触れた。


 ——遅い。


 流れが、無理に整えられている。

 “判断した痕”だけが残り、

 判断の理由がない。


「……誰の指示だ」


「……上からです」


 それが、答えだった。


「“成功例がある”と」


 その一言で、

 全部が繋がる。


 アークは、深く息を吐いた。


「これは、再現じゃない」


 誰に言うでもなく、そう言った。


「切り取っただけだ」


 すぐに、通常手順に切り替える。

 回復魔法を重ね、

 最悪の事態は免れた。


 だが——


「……後遺症は、残る」


 誰かが、呟いた。


 処置室を出た後、

 廊下の空気は、張り詰めていた。


「……あなたのやり方が原因だって」

 若い医師が、震える声で言う。


「言われるだろうな」


 アークは、否定しなかった。


「でも」

 彼は続ける。

「俺は、これを“教えていない”」


 リーナが、一歩前に出る。


「教えたのは」

「“判断を切る”という考え方です」


「それを」

「結果だけ真似したのが原因」


 だが、

 納得しない顔は多い。


「……成功してたじゃないか」


 誰かが言う。


「成功は」

 アークは、静かに返す。

「常に、条件付きだ」


 会議は、荒れた。


「共有が早すぎた」

「いや、遅すぎた」

「管理が——」


 責任の矛先が、揺れる。


 その中で、

 アークは、一つだけ言った。


「俺は、次から関与しない」


 空気が、凍る。


「……逃げるのか」


「違う」


 アークは、はっきり言う。


「線を引く」


「これは、歪みだ」

「止めなければ、もっと死ぬ」


 沈黙。


 その夜、

 正式な通達が出た。


当該判断基準の使用を、一時停止する


 短い文。

 だが、重い。


 成功例は、

 たった一つの失敗で、止まった。


 リーナが、窓際で言った。


「……早かったわね」


「まだ、軽傷だ」


 アークは、遠くを見る。


「もっと広がってからなら」

「止められなかった」


 それは、

 自分に言い聞かせる言葉でもあった。


 正しさは、

 伝えた瞬間に、歪む。


 それでも、

 伝えなければ、残らない。


 ——だからこそ。


 次は、

 一歩引くしかない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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