第24話 理解した者、誤解した者
最初の実践は、思ったより早く訪れた。
王都医療局の一角。
軽症と判断された患者が、二人。
どちらも回復魔法では改善が鈍く、
だが、命の危険はないとされている。
「……やってみるか」
三人のうち、一人が言った。
アークは、少し離れた位置で見ている。
口は出さない。
それが、約束だった。
最初に動いたのは、背の低い青年だった。
慎重で、言葉数が少ない。
彼は、患者の前で、すぐには触れなかった。
呼吸。
視線。
手足の緊張。
時間をかけて、
何もしない時間を置く。
やがて、小さく息を吐いた。
「……今は、触らない方がいい」
周囲が、ざわつく。
彼は、弱い回復魔法だけを指示した。
強化も、重ねもない。
数分後、
患者の顔色が、わずかに良くなる。
「……楽です」
その一言で、空気が変わった。
成功だ。
アークは、何も言わない。
ただ、頷いた。
次に動いたのは、もう一人。
年上で、自信家。
理解が早いと自負している男だった。
「流れを見て、整えてから、ですね」
彼は、迷いなく手を出した。
——早い。
判断が、早すぎる。
アークの指先が、わずかに動いた。
だが、止めない。
約束だからだ。
男は、流れを“整えたつもり”になり、
弱い回復魔法を重ねた。
最初は、良さそうに見えた。
だが——
「……痛い」
患者の声が、震える。
呼吸が乱れ、
顔色が一気に悪くなる。
「……おかしい」
男が焦る。
回復魔法を、追加しようとする。
「やめろ」
アークが、低く言った。
空気が凍る。
すぐに通常手順に切り替え、
事なきを得た。
——致命傷にはならなかった。
だが、
患者は、しばらく苦しむことになった。
処置室を出た後、
三人が沈黙したまま立っている。
アークが、口を開いた。
「何が違った」
答えたのは、最初の青年だった。
「……切りました」
「何を」
「触る判断を」
「早く治したい気持ちを」
アークは、頷いた。
次に、自信家の男を見る。
「……分かったつもりでした」
男は、悔しそうに言う。
「整えるって、
手を出すことだと思っていた」
それが、誤解だ。
「俺は」
アークは、静かに言った。
「成功も失敗も、同じ重さで見る」
二人を見る。
「今日、評価が高いのは」
「成功した方じゃない」
二人が、顔を上げる。
「失敗した理由を、言葉にできた方だ」
自信家の男が、唇を噛んだ。
「……俺は」
「続けるか」
アークは、問いを投げる。
男は、少し迷い、
やがて、首を振った。
「……一度、降ります」
逃げではない。
判断だ。
残ったのは、二人。
リーナが、アークの横で小さく息を吐く。
「……減ったわね」
「減らすために、やっている」
その日の夜、
アークは一人で考えていた。
同じ言葉を、
同じように聞いた。
それでも、結果は違った。
——教えるということは、
選別するということだ。
救う可能性を広げると同時に、
誤解による傷も生む。
それでも。
判断を残さなければ、
何も残らない。
アークは、窓の外を見る。
王都の灯りは、今日も変わらない。
だが、
理解の差は、はっきりと生まれた。
ここから先は、
その差が、物語を動かす。
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