第23話 教えるという危険
集められたのは、五人だった。
王都医療局の若手。
全員、腕は悪くない。
少なくとも、向上心だけはある。
「……少ないな」
誰かが、小声で言った。
「多いと、壊れる」
アークは、それだけ答えた。
会議室ではない。
処置室の一角を借りた、狭い部屋。
机も黒板もない。
「今日は、治療を教えない」
その一言で、空気がざわつく。
「……え?」
「じゃあ、何を?」
アークは、五人の顔を順に見た。
「判断の捨て方だ」
沈黙。
「回復魔法が効かない症例に対して」
彼は続ける。
「俺がやっているのは、治すことじゃない」
若手の一人が、眉をひそめる。
「……治してましたよね」
「結果として、な」
アークは否定しなかった。
「だが、最初にやっているのは——」
「何を、やらないかを決めることだ」
誰も、すぐに理解できない。
それでいい。
「回復魔法を切る」
「強い刺激を切る」
「時間短縮を切る」
言葉を、並べる。
「全部、患者を助けたい気持ちを切る判断だ」
一人が、息を呑んだ。
「……そんなの、怖すぎます」
「そうだ」
アークは、はっきり言った。
「だから、教えるのは危険だ」
室内が、静まり返る。
「成功例だけを覚えるな」
「俺が“やったこと”を真似するな」
視線が、集まる。
「覚えるべきなのは」
「俺が、何を見て、何を切ったかだ」
リーナが、部屋の端で腕を組んでいる。
彼女は、口を出さない。
ここは、彼の仕事だ。
「……質問があります」
一人が、恐る恐る手を挙げた。
「それって、再現できますか」
アークは、少し考えた。
「できない」
即答だった。
若手たちの表情が、揺れる。
「正確には」
アークは続ける。
「再現しようとした瞬間、壊れる」
沈黙。
「だから」
彼は、声を落とす。
「今日は、技術を渡さない」
「じゃあ……」
「代わりに」
アークは、床に描かれた魔法陣の痕を指した。
「失敗例を話す」
その言葉に、全員が息を呑む。
「救えなかった患者」
「触らなかった患者」
「判断を間違えた夜」
アークは、淡々と語った。
誇張しない。
言い訳もしない。
ただ、
どこで判断を誤ったかだけを置いていく。
話が終わる頃、
部屋の空気は、重く沈んでいた。
「……これを聞いて」
アークは言った。
「それでも、やりたい者だけ残れ」
五人のうち、二人が視線を落とした。
一人は、苦笑する。
「……俺には、無理です」
もう一人は、黙って部屋を出た。
残ったのは、三人。
その目は、
さっきより、ずっと慎重だった。
リーナが、初めて口を開く。
「……これでいいの?」
「いい」
アークは、短く答えた。
「増やすより、減らす」
教えるという行為は、
善意でできている。
だからこそ、
最初にやるべきは、足切りだ。
彼は、三人を見た。
「ここから先は」
「正解がない」
それでも。
判断を残すなら、
この人数でいい。
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