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第21話 消費される医師

 疲労は、突然やってこない。


 少しずつ、確実に積み重なる。


 王都での生活が始まってから、

 アークは時間の感覚を失っていた。


 朝か夜か。

 今日は何日目か。


 気づけば、手を洗う回数だけが増えている。


「……次、五番処置室」


 名を呼ばれない。

 番号で呼ばれる。


 それが、今の立場だった。


 診るのは、いつも限界の症例だ。

 回復魔法が尽き、

 通常手順が破綻した後の患者。


 ——切り札。


 それが、彼に与えられた役割だった。


「……まだ、やるの?」


 休憩室で、リーナが言った。


 アークは、椅子に腰を下ろし、手を見た。

 指先が、わずかに震えている。


「……次で終わりだ」


 それが、何度目の“次”か、

 もう覚えていない。


 処置室に入る。


 重症患者。

 また一人。


 集中する。

 流れを見る。

 整える。


 だが——

 反応が、鈍い。


「……遅い」


 自分の判断が、

 一拍遅れているのが分かる。


「アーク?」


「……問題ない」


 嘘だった。


 成功はした。

 命はつながった。


 だが、

 部屋を出た瞬間、視界が揺れた。


 壁に手をつく。


 ——来ている。


 限界が。


 それでも、誰も止めない。

 止める理由がない。


 成功しているからだ。


「……報告は以上だ」


 会議室で、誰かが言う。


「今日も助かりました」


 感謝の言葉は、軽い。


 名前は出ない。

 評価もない。


 だが、

 “次も頼む”という視線だけが残る。


 夜、部屋に戻ると、

 リーナが静かに言った。


「……このままだと、壊れる」


 アークは、答えなかった。


「あなたが壊れたら」

 彼女は続ける。

「代わりはいない」


「制度は、代わりを探す」


「それは、あなたじゃない」


 沈黙。


 窓の外で、王都の灯りが揺れている。


「……俺がやらなければ」


 ようやく、言葉が出た。


「分かってる」


 リーナは、即座に返した。


「だからこそ」

「全部を背負うやり方を、やめて」


 アークは、目を閉じた。


 現代でも、同じだった。

 頼られ、

 引き受け、

 限界までやる。


 そして、

 誰にも気づかれずに、消耗する。


「……線を引く」


 低く、そう言った。


 リーナが、顔を上げる。


「次は——」


「次は」

 アークは、はっきり言った。

「条件を出す」


 守られない正しさは、

 いずれ正しさでなくなる。


 ここまで来て、

 それを認めないほど、愚かじゃない。


 その夜、

 非公式の呼び出しは来なかった。


 だが、

 それは嵐の前の静けさだった。


 ——明日。


 境界線を、引く。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


次の投稿からは、1日1回の更新になります。


ブックマークをして、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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