表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/24

第16話 使うという選択

 会議室の扉が閉まると、空気が変わった。


 外の慌ただしさが嘘のように、静まり返る。

 白い壁。長い卓。

 王都医療局の中枢が集まる場所だ。


 アークはいない。


 それが、この場の前提だった。


「……状況を整理しよう」


 議長席に座る老医師が口を開く。


「昨夜、重症患者一名を救命」

「通常の回復魔法では、ほぼ不可能だった症例だ」


「補助要因があった」

 別の医師が言う。

「設備と人員が揃っていた」


「それでも、彼の介入がなければ——」

 言葉を切る者がいた。

「結果は違っていた可能性が高い」


 沈黙。


「問題は、そこではない」

 議長が言う。

「我々が議論すべきは——」


 一拍。


「彼をどう扱うかだ」


 視線が、バルドに集まる。


「バルド」

「現場責任者として、意見を聞こう」


 バルドは、腕を組んだまま答えた。


「危険だ」


 即答だった。


「彼の医療は、個人依存が強すぎる」

「理論化できず、再現性が担保できない」


 数人が、頷く。


「だが」

 バルドは続ける。

「結果は否定できない」


 ざわり、と小さく空気が揺れる。


「否定できないからこそ、危険だ」

 魔法医学派の医師が言う。

「成功例だけが独り歩きする」


「現場は数字で動かない」

 別の声。

「失敗は、記録に残らない」


「それは、我々も同じだ」

 バルドが言った。

「失敗をゼロにできる医療など存在しない」


 一瞬、空気が張り詰める。


「……言葉が過ぎるぞ」


「事実だ」


 バルドは引かなかった。


「問題は」

 彼は、指を卓に置く。

「彼を排除した場合、同様の症例を救えないことだ」


 沈黙。


 誰も、すぐに反論できなかった。


「彼は、制度を壊す」

 老医師が、低く言う。

「意図せず、だが確実に」


「だからと言って」

 バルドは視線を上げる。

「制度を守るために、救える命を切るのか?」


 その問いは、重かった。


「……折衷案がある」


 若い役人が、恐る恐る口を開く。


「“医療行為”としては認めない」

「だが——」


 言葉を選ぶ。


「例外処置要員として、使う」


 会議室が、ざわつく。


「緊急症例限定」

「記録は残さない」

「公表もしない」


「責任は?」

 誰かが問う。


「……全て、医療局が負う」


 沈黙が落ちる。


 それは、

 制度が個人を飲み込む選択だった。


「……バルド」


 議長が言う。


「お前が管理しろ」


 バルドは、ゆっくりと息を吐いた。


「……了解した」


 その声に、迷いはなかった。

 だが、覚悟はあった。


「ただし」

 彼は続ける。

「条件がある」


「何だ」


「彼に、“使われている”と悟らせないこと」

「彼は、そういう立場に耐えられない」


 誰も否定しなかった。


「——そして」


 バルドは、静かに言った。


「いずれ、正面から向き合う」


 会議が終わる。


 決定は、静かに下された。


 その頃、

 アークはまだ知らない。


 自分が

 “排除されなかった代わりに、使われる”

 存在になったことを。


 それが、

 次の戦いの始まりだということも。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ