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第15話 正しさの置き場所

 王都医療局の中は、夜でも動いていた。


 白い廊下。

 魔力灯。

 忙しなく行き交う治療師と魔法使い。


 設備も、人も、辺境とは比べものにならない。


「……ここまでやってるのか」


 思わず、声が漏れた。


「王都だからな」


 バルドは淡々と答える。


「だが」

 彼は、ちらりと俺を見る。

「それでも救えない症例はある」


 運ばれた処置室で、子どもは寝台に移された。

 複数の魔法使いが、即座に状況を確認する。


「魔力循環、ほぼ停止」

「臓器反応、低下」

「回復魔法、反応薄」


 次々と報告が飛ぶ。


「……間に合うか?」

 誰かが言った。


 バルドは、俺を見る。


「君なら、どうする」


 試している。

 そして、測っている。


「まず——」

 俺は、深く息を吐く。

「回復魔法を止める」


 一瞬、空気が張り詰めた。


「何だと?」

「この状態で?」


「今、回復魔法を重ねると」

 俺は言葉を選ぶ。

「“治そうとして、壊す”」


「……理屈は分かる」

 バルドが言う。

「だが、放置すれば死ぬ」


「放置しない」

 俺は即答した。

「整える」


「整える?」


 俺は、子どもの胸にそっと手を当てた。

 微弱な反応。

 だが、完全に消えてはいない。


「流れを、一本に戻す」

「全部を救おうとしない」


 魔法使いたちが、困惑した顔でバルドを見る。


「……時間はどれくらいだ」

 バルドが問う。


「三十分」

「それ以上は、俺でも無理だ」


 沈黙。


 バルドは、腕を組み、数秒考え——

 やがて言った。


「……やれ」


 周囲が、ざわつく。


「責任は?」

「俺が取る」

 バルドは言い切った。

「失敗すれば、君は正式に排除される」


「構わない」


 俺は、そう答えた。


 ——ここが、分岐点だ。


 俺は、静かに手を動かす。

 強くは押さない。

 流れを“思い出させる”だけ。


「……反応、変化」

 魔法使いの声が上がる。


「魔力の偏りが……減ってる?」


 汗が、額を伝う。

 集中を切らすな。


「……今だ」


 俺は、低く言った。


 魔法使いが、弱い回復魔法をかける。

 光が、穏やかに広がる。


「……入ってる」

「拒絶が、ない」


 呼吸が、少し深くなる。


 だが——

 完全ではない。


「……限界だ」


 俺は、手を止めた。


 この先は、

 設備と人の仕事だ。


 沈黙の後、

 バルドが、静かに息を吐いた。


「……生きる」


 その言葉に、誰かが崩れ落ちる。


 子どもの命は、つながった。


 処置室を出た後、

 バルドは俺を呼び止めた。


「君の医療は」

 彼は、真っ直ぐ言った。

「危険だ」


「知ってる」


「だが」

 彼は続ける。

「回復魔法だけでは、

 確実に死んでいた」


 俺は答えなかった。


「……聞かせてくれ」

 バルドが言う。

「君は、何を基準に判断している」


 俺は、少し考えた。


「数字じゃない」

「理論でもない」


 そして、言った。


「この体が、戻ろうとしているかどうかだ」


 バルドは、目を伏せた。


「……それを、制度に載せられない」


「分かってる」


「だから、我々は敵になる」


 俺は、首を振った。


「違う」

「立っている場所が違うだけだ」


 バルドは、短く笑った。


「……厄介な奴だ」


 その夜、

 子どもは集中管理室に移された。


 命は、王都の中で守られている。


 だが——

 このやり方が広がるかどうかは、別の話だ。


 王都は、俺を拒まない。

 だが、受け入れもしない。


 それでいい。


 ここからは、

 正しさをどう“翻訳”するかの戦いだ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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