テレビドラマ企画案『サイレント・クライシス ―AIが告発した真実―』
■ 登場人物
本田 翠 - 28歳: 主人公。経営企画室所属のAIプランナー。最新の生成AI「KAI(Crisis AI)」を開発し、今回の危機対応に導入することを強く推し進める。効率とデータこそが、最大の誠意であると信じている。
武田 健介 - 52歳: カスタマーサポート室のベテランSV。長年の経験から「謝罪は人の声で、直接伝えるもの」という強い信念を持つ。AIによる顧客対応に強い嫌悪感と不信感を抱いている。
KAI(Crisis AI): もう一人の主人公。翠が開発した危機対応特化型生成AI。膨大な情報を元に、最適化された回答案を生成し、問い合わせ内容をリアルタイムで分析する能力を持つ。
■ あらすじ
大手食品メーカー「ハピネスフーズ」の主力商品である冷凍食品に、基準値を超える農薬が混入していたことが発覚。テレビやSNSで瞬く間に情報が拡散し、会社の代表電話は鳴り止まず、メールサーバーはパンク寸前に陥る。
緊急対策本部が設置される中、若きAIプランナーの翠は、この危機を乗り切るため、自らが開発した危機対応AI「KAI」の導入を役員に進言する。「KAIを使えば、24時間体制で全ての問い合わせに、正確かつ統一された品質で対応できます」――。藁にもすがる思いの経営陣は、翠の提案を承認。しかし、その決定にカスタマーサポートの現場責任者である武田が猛反発する。「我々の仕事は、お客様の不安な気持ちに寄り添うことだ。AIが生成した文章で、本当の謝罪が伝わるものか!」
臨時で設置された殺伐とした雰囲気のカスタマーセンター。翠の指揮のもと、オペレーターたちはKAIがリアルタイムで生成する回答案を元に、次々と問い合わせを処理していく。その驚異的な処理速度と正確さに、経営陣は安堵の色を見せる。武田もその効率性を認めざるを得なくなる。
だが、数時間後、KAIの“完璧さ”が綻びを見せ始める。AIが生成した丁寧だが血の通わない謝罪メールがSNSで「#AI謝罪」として炎上。さらに、我が子の健康を案じる母親からの悲痛な電話に対し、オペレーターがKAIの冷静なスクリプトを読み上げたことで、事態はさらに悪化。武田が電話を代わり、長年の経験で培った真摯な対話で、なんとかその場を収める。翠は、データでは測れない「人の心」の壁に突き当たる。
その夜、翠はKAIが続けていた「問い合わせ内容のリアルタイム分析」のレポートに、ある奇妙なパターンを発見する。特定の地域、特定の製造ロット番号の商品に関する健康被害の訴えが、ごく初期段階から複数寄せられていたのだ。さらに分析を進めたKAIは、数ヶ月前に社内で提出された「製造ラインの異常検知に関する報告書」と、今回の問い合わせデータを紐付け、**「初期段階での問題を、経営層の一部が意図的に軽視した可能性」**をデータとして突きつける。
翠が発見したその事実は、単なる製品事故ではなく、企業そのものを揺るがす隠蔽疑惑だった。翠からデータを見せられた武田は絶句する。AIが冷徹なデータ分析の末に暴き出した、不都合な真実。翠と武田は、テクノロジーと人間の尊厳を巡る対立を超え、企業人として、一人の人間として、重大な選択を迫られる。果たして、二人が導き出す「本当の誠意」とは。そして、AIが告発した真実の先に、会社の未来はあるのか――。