11 エルエル、モンスターから逃げる!
2人並んで全力で林を走りまわる後方から耳が割れる様な巨大リザルウルフの咆哮が何度も聞こえてくる。
「ワオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!」
「ぎゃあああああああ!!滅茶苦茶追ってきますよあの狼!!!!!」
「アンタが石なんかぶつけるからでしょこのバカエルフ!!!!」
「うるせえ!!!!お前もやるやんけみたいな事言ってただろチビ妖精!!!!」
「そ、それは……その……と、とにかくこのままさっきの罠がある場所まで誘い込んで転ばせて落とし穴に落とすのよ!!それしかないわ!!」
「こんなでかい奴じゃ草の罠に足が引っかからないわ!!!!もっと小さい奴想定してたから!!!」
「ええっ!?な、なんでよッ!?」
「おまっ……!!お前が普通の犬くらいのサイズって言ったから罠もそれ用の小さい奴しか作んなかったんですよ!!!!!!」
「ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!」
「「ぎゃああああああああああ!!!!!!!」」
もう何分も全力で林の中を斜めに走ったり曲がったりしても巨大リザルウルフはピッタリ後ろをくっついてきて全く撒ける気配はない。それどころか逃げ回る私達を捕まえられない事に更に怒りをヒートアップして追って来る。
もうこれ逃げ切れないんじゃないか。ラピス様、こんな所によこして恨みますね。クソババア!……いや、そうじゃない。逃げ切れないなら……。
「戦うしかない……!!」
「えっ……?」
「おい!!お前は先に行けっ!!!」
「えええっ!?」
「こいつは…""私がここで倒す""っ!!!!!!!!!!」
「あ、アンタ……」
私は立ち止まり振り返り構える。こんな時に役立つのは…そう、ラピス様から教わった"エルリア流護身体術"だ。エルリア族に伝わる素手で相手を倒す技術。人相手にもモンスター相手にも使える秘技だ。
ラピス様が教えてくれた事はほとんど聞いていなかったが…今はこれに頼るしかない。
「……っ!!そ……それなら私も残るわ!!」
「えっ…!?」
「わ、私だって魔法ちょっとは使えるのよ……!!アンタだけに良いかっこさせないわ……!!」
体も声も震えているのに振り返り私の隣で止まる。
……なんだよコイツ。結構根性あるじゃん。
「……フッ、死なないでくださいよ!!""アルル""!!」
「そっちだって……!!""エルエル""!!!」
初めてだ。初めて名前を呼び合った。不思議だな。あれだけ喧嘩していた私とアルルだっていうのに。お互いを認め合い協力して強敵に挑もうとしていた。
この二人ならなんでも出来そうだ。勇気が湧いてくる。何も怖くない。正面から臨戦態勢を取った私達に向かって来る巨大リザルウルフも今なら全く怖くな……。
「ワオワオワオワオワオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!」
「「………」」
「「やっぱ無理いいいいいいいい!!!!!!!」」
やっぱり怖くなったので振り返り走り出そうとした瞬間。
「ぶべっ!!!!」
「きゃあああっ!!!アンタなにすん……ぶべっ!!!!」
いつの間にかさっきの作った罠ゾーンまで帰ってきていて、私は自分で作った草の罠に思いっ切り足を取られ、転んで落とし穴にすっぽり落ちた。落ちる際、アルルのスカートを掴んでパンツ丸出しになったアルルを巻き込みながら。
「おおおい!!!何やってんのよアンタ!!!」
「うるせー!!罠に引っかかっちゃったんですよ!!!」
ああ、私は最期にコイツと穴の中で言い争って巨大リザルウルフに喰われて死ぬのか。南無。
「ワオッ!?!?!ワオオオオオオオオオオオオ!?!?!」
ゴツンッ!!!
巨大な何かがぶつかる音がして地震の様な振動が一瞬起こる。…?何の音だろう。私とアルルはおそるおそる落とし穴の中から音の方向を覗く。すると衝撃的な物が目に映る。
「り、リザルウルフが倒れてるわよ!!!」
「え……えええええええ!?!?」
私達は穴から飛び出てその近くに向かうと巨大リザルウルフは頭に大きいコブを作り、目をまわしながら地面に倒れていた。その先にはヒビの入った大きい岩がある。
「い、岩にぶつかって頭打ったんですかね……?」
「もしかして急に私達が落とし穴に落ちたから視界から急に消えてビックリして止まれなくなってそのまま先にあった岩にぶつかっちゃったのかしら……?」
「「………」」
追いかけっこのアホみたいな結末に私とアルルはぽかんとした顔を見合わせる。
「と、とにかく……!」
私は目を回して倒れてるリザルウルフの牙に引っかかっているペンダントを奪い天に掲げる。
「わーははははは!!!!やったああああああああああああ!!!!ペンダントを取り戻したぞおおおおおおおおお!!!!!!!!」
「はあ……エルエル、アンタ……偶然なのによくそんな笑えるわね……」
「アルル!!私達の作戦が成功しましたね!!!わっはははははは!!!!!」
「ふふっ……なによただの偶然じゃない……ふふ…あははははは!!!」
「「わーはっはっはっは!!!!!」」
私とアルルは目を回しているリザルウルフの横で笑い合った。
ただの偶然でペンダントを取り戻しただけだか少しだけ……
ほんの少しだけ2人の間で友情が産まれた気がした。
明日はお昼頃と夕方、2回更新予定です。
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