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冬も本格的に寒くなってきた。外出時、厚手の靴下を履いても、爪先は冷たく、とうとうかじかんでくる。ガールフレンドと出会った頃には盛大であった並木の葉もほとんどが落ち葉と化して行方をくらまし、樹々はヌードモデルのようにポーズを決めては、宙にくねった枝を晒し、投げ出している。いつしか池には待ち望んでいたかのように、どこからともなく渡り鳥が飛来し、小さな群れを形成しながら、水上を渡り、ときおり羽をばたつかせる。街道を行く人々の多くは、厚着をし、その膨らんだシルエットを、身を守るように縮こませては、景色に色を添え、次から次へと入れ替わってしまう。
雪。それは小さな綿毛のように、天からはらりと降ってきた。手のひらを差し出すと、手袋の上で儚くもすっと消える。そうして、彼女は顔を上げ、白い息を吐きながら、嬉しそうに笑った。
「綺麗」
「うん」、ぼくは頷いて同意した、「綺麗だね」。
「もっと降って、それでたくさん積もればいいのに。私雪遊びしたいな」
「子供かよ」
彼女は可笑しそうにくすくすと声を洩らして、「いいじゃない、それくらい。人はみんな年輪の違う子供なのよ。それに雪遊び、きっと楽しいよ?」。
「でも身体は大丈夫なの?」とぼくは心配して尋ねた、「動いてしんどくならない?」。
「大丈夫」と、彼女は満面の笑みで言い放った、「インフルエンザも治ったことだし、これからもっと、どんどんよくなるわ」。
ぼくはその言葉をぐっと噛みしめて、「そうだな、きっとそうだよな」。
彼女の病気はきっとよくなる、ぼくらはそう信じようと努めていた。それは願いというよりも、むしろ祈りにちかい。彼女の病気(正式には障がい)は、現代医学においては進行を遅らせる、あるいはよくて可能な限り進行を留めるのが限度で、つまるところ、不治の病に変わりはないのだから。でもこうして彼女と手をつないで歩いていると、なんだか充たされた、どこか懐かしい気持になってくるのは紛れもない真実であり、この幸福だけは、赤い手袋に覆われたこの華奢な手だけは、決して手放したりはしない。