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【短編集】始末に負えない女性たちの碌でもないハッピーエンドについて

共犯者 ~間違った家庭内トラブルの解決法について~

作者: G3M

1.

 山口綾は玄関で物音がするのに気が付いて立ち上がった。部屋着のティーシャツとジャージのズボンのまま、階段を降りた。部活を終えて帰宅した弟の洋一が靴を脱いでいる。


「おかえり、洋ちゃん」と綾。


「ただいま、姉さん」と洋一。


「お茶にする、お風呂にする、それとも、わ・た・し?」と綾。「お茶にする」と洋一がそっけなく返事をした。


 洋一が着替えている間、綾はキッチンでお茶の準備をした。「紅茶をいれたわよ」と綾。


 洋一がリビングルームのソファーに座った。


 綾が二人分のティーカップと菓子盆をコーヒーテーブルに並べて、洋一の隣に座った。


「学校はどうだった?」と綾。「特に何もないよ。いつも通り退屈だった」と洋一。


「そう、何か面白いこと一つくらいあったでしょ。話してよ」と言いながら、綾は洋一にもたれかかった。


「古典の時間に寝ていたら、先生に怒られたよ」と洋一は言いながら、綾の腰に右手をまわして、綾の体を引き寄せた。


「洋ちゃんだけ怒られたの?」と綾。「まさか、みんな寝てたんだ。体育の後だったから」と洋一はティーカップを左手に持って紅茶をすすった。


「紅茶、どう?ファートナム&メイソンなのよ」と綾。「今日届いたの。」


「またアマゾン?」と洋一。


「いいじゃない。便利なんだから」と綾。


「今度、外に買いに行こうよ」と洋一。「モールにおしゃれなオーガニック食品の店が開店したんだ。」


「無理よ、わたし、自宅警備で忙しいんだから」と綾。


「無理やり引きずり出すよ」と洋一。


「いやよ。でも洋ちゃんが一緒にいるって約束してくれるなら、ちょっと考えてもいいわ」と綾は長い髪をいじりながら言った。


「今から行くか」と洋一。


「いや!」と綾は体をねじって洋一から離れようとした。


「冗談だよ」と洋一は右手で綾の体を抱えながら言った。


「怒るわよ!」と綾。


「怒ったらどうなるの?」と洋一は言いながら、腰にまわした右手で綾のバストをつかんだ。ティーシャツにバストの輪郭がはっきりと浮かんだ。


「いやん!」と綾。


「姉さん、ティーシャツとジャージ以外の服を持てないの?」と洋一。


「何着てほしいの?メイド服?バニーガール?それとも、もっとエッチなやつ?」と綾。


「そうじゃなくて、外に着ていく服だよ。紅茶を買いに行くんだろ?」と洋一。


「ないわ。外になんて出ないから」と綾。


「そうか、それなら首輪つけて、リードで引っ張って連れて行くよ」と洋一。


「そんな鬼畜な!」と綾。


「昨日、喜んでただろ、姉さん」と洋一。


「外ではやめて!」と綾。


「じゃあ服買えよ」と洋一。「母さんからたっぷり小遣いもらってるんだろ。」


「洋ちゃんが優しくしてくれたら、考えてあげる」と綾は媚びる笑顔で洋一を見た。


「わかったよ」と言いながら、洋一は綾の体を押し倒しながらキスをした。



2.

 玄関で物音がした。母の裕子が帰宅したのだろう。綾は素早くリビングルームを出て、階段を上がり、自分の部屋に入った。


 リビングルームに入ってきた裕子は「ただいま」と洋一に言った。


 両親は自分の娘と息子の関係に気が付いていたが、何も言わなかった。父の忠司は精神科医で母の裕子は中学校の教師である。


 一昨年、高校でのトラブルが原因で、綾が不登校になった。両親は綾を不登校から立ち直らせようと説得したが、効果はなかった。家の外でカウンセリングや診察を受けさせなかった。外聞を気にしたためである。


 綾は口うるさく学校に行けと言う両親に暴力を振るうようになった。手を付けられないほど叫んで暴れる綾のことを、しばらくして両親はあきらめた。ほどなく綾は自分の部屋に引きこもった。


 洋一は、綾の唯一の話し相手だった。去年の春、洋一が高校に入学した。ちょっとしたきっかけから二人は肉体関係を持った。それ以来、綾の家庭内暴力はピタリとおさまって、家の中は静かになった。


「今晩も頼むわよ」といって裕子はコンドームの箱を洋一に渡した。


「今日、学校で進路相談があったよ」と洋一。「ぼくは大学に入学したら、下宿するから。好きな女の子がいるんだ。」


「そんなこと、綾が許すわけないでしょ」と裕子。「そもそも、あの子が不登校になったのはあんたのせいよ。ちゃんと責任取りなさい。」


 二年前に洋一は、綾が当時付き合っていた男子に、綾が味覚障害で料理ができないことを教えた。その後、綾は彼氏に振られただけでなく、味音痴のうわさが広がった。それが不登校の原因になった。


「姉の彼氏に嫉妬して、つまらない告げ口をしたあんたが悪いのよ」と裕子。「進路の話はあとで聞くから先に風呂に入りなさい。お母さんもすぐに行くから」と洋一の耳元でささやいて台所に入った。



3.

 綾の携帯電話が鳴った。「何?」と綾。


「洋一が大学に進学して下宿したいって言ってるわ。好きな女の子と住むそうよ」と裕子。


「認めるの?」と綾。


「もちろん、そんなことさせないわ」と裕子。「洋一は私たちのものよ。誰にも渡さない。それから、ちゃんと避妊するのよ」と裕子。


「わかってるわ。母さんもね。抜け駆けはなしよ」と言って綾は携帯を切った。


最後まで読んでくださり、大変ありがとうございます。少しでも面白いと思っていただけましたら、☆評価とブックマークでの応援をお願いいたします。


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