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お金持ちの子の家庭教師になって戸惑ったこと

作者: 木山花名美

勇気を出して書きます。

 

 大学を卒業して間もない、二十代前半。

 副業で家庭教師をしていた時の話だ。


「裕福なご家庭なので、ご両親もおおらかで働きやすいと思いますよ」


 そう勧められて、初めて長期間受け持つことになった小学生の女の子。

 話に聞いていた通り、アスレチック遊具がある大きなお庭と、立派なお家に驚いたことをよく覚えている。女の子は可愛かったし、ご両親も本当におおらかで、温かく迎え入れてくださった。



 勉強を教え始めてからしばらく経った日のこと。

 その子が、何も書いていないノートを、何度も消しゴムで擦っていた。

 何をしているの? と訊いたら、

「新しいのを買ってもらいたいから、早くコレをなくしたいの」と。


「勿体ないじゃない。まだ使えるのに」


 思わずそう言ってしまった私。

 その子は全く気にせず、「いいの。なくしたいから」と、まだ新しい消しゴムを真っ白なカスに変え続けた。

 私は道徳の授業をしに来た訳じゃない。「そう」とだけ言って、とりあえず授業に集中させることに努めたが、酷く戸惑っていた。


 他にも、

『私はキングサイズのベッドじゃなきゃ眠れない』

『安いケーキなんか不味くて食べられない。自分のお小遣いで、高いのを何個も買えるし』

 とか。


 ……こたつで寝ちゃう。

 スーパーの半額ケーキで喜んじゃう。

 そんな私は、セレブな小学生の言葉にたじろいだ。


 やがて気付いた。良いとか悪いとかではなく、彼女とは住む世界が全く違うのだろうと。

 社会の授業で戦争やお金の価値についても教えたけれど、正直その子には必要ないと思った。だってこの先、お金に苦労することなんてないだろうし。『勿体ない』なんて到底理解出来ないよと、まだ若かった私は諦めた。



 私は少し複雑な家庭環境で育った為、学生時代はバイトをして交通費や諸々を支払い(学費は奨学金)、家にもよくお金を入れた。

 塾にもほとんど行けず、一回数千円の検定ですら、絶対無駄にするものかという気合いで臨んできた。



『育った家庭環境』


 うん、分かり合えないと思う。

 自分のことだけ考えていられる子供と、そうではない子供。

 前者は服にまで気を配れるけれど、後者はそうではないかもしれない。

 価値観が違えば、想像力を働かせることも困難なのだろう。だが、それでいいのかと疑問に思う。



 もちろん大人になっても、子供の頃の価値観は染み付いている。


 消しゴムなんて百均で何個も買える時代。

 だけど今、自分の子供が消しゴムを無駄にしたら、私はすごく怒ると思う。その消しゴムは何の為にあるのか、何故当たり前に使うことが出来ているのか。『勿体ない』理由を懇懇と説く。


 ピアノの発表会だって、子供のファッションショーよりも、演奏を仕上げることを優先させる。

 綺麗なドレスも素敵な思い出だけど、どんな演奏をしたか、その演奏に向けてどんな練習をしたかを、より心に残して欲しいと思うから。

 その根底には、『音楽を学べることは贅沢で幸せだ』という価値観があるからだ。



 マナーや品は確かに大切だ。

 生まれつき恵まれた家庭環境で育った人には敵わないと、自分を情けなく思うこともある。

 だけどそれよりも、服装や所作一つで、話したこともない人の内面を勝手に判断したり、仲良くなれないと壁を作りたくはない。


 普段着にスニーカーでピアノの発表会に出た子供が、将来有名な作曲家になっているかもしれない。

 パーカーにデニム、仕事道具の詰まったリュックを抱えて舞台を観た若者が、数年後には素晴らしい俳優になっているかもしれない。

 金持ちだろうが貧乏だろうが、そんな風に想像出来る、心のゆとりと豊かさを持っていたいと。



 『日常』を精一杯生きるしかない自分を、恥じなくてもいいんだよ。

 大切なのは、『育った家庭環境による価値観』ではなく、その価値観を超えた心の有り様だと、私はそう思う。



ありがとうございました。

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実際にそういった人間と会ったことはないし、多分会うこともないワタシからすると「リアルにいるんだ、そういう人が…………」というのが正直なところ。 正しく価値観が違うんだろうなあ。 ただまあ、何年前かは分…
捨ててしまえばいいのに、わざわざ使い切るという行動をしている彼女は親から「使い切るまでは買わない」とでも言われていたのでしょうか?もしそうなら素直だなと。嘘を悪い事と認識しているのは良いことだとは思い…
読んで最初に得たある感想を得たのですが、しばらくして思い直しました。 この子って、両親からお金は与えられているけど、愛情は与えられていなかったのではないか、と。 新しいものを買ってもらおうとするのは…
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