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現世に堕ちた死神 その2

 日が落ち切って夜。村民のほとんどが眠りにつき、入り口の松明を除いて明りはない。空は曇天に覆われて星も月も見えない。まさに闇に包まれた集落だ。冷たい夜風が顔を突き刺す。村の人達から防寒着と雪上の上を歩くための雪靴を借りた。靴底に薄く面積のある板が付いている。

マナン、ラン、ヒイラギは山の麓で先の見えない山肌を眺める。今日は一段と寒いと村長は言っていたが三人はそれとは別のそれを感じていた。全身の熱が急激に下がり、冷や汗がにじみ出る。本能で恐怖を感じる程の気配が山に覆われていた。

「私しか行けないわね。」マナンが」静かに言った。恐怖で口が開かなかった二人はようやく正気に戻った。「ここは危険です。マナン様。」「増援を呼ぶべきです。」ランとヒイラギは懸命に説得した。

マナンが振り返って二人と顔を合わせる。いつもの穏やかな表情はなく真剣に見つめる。

「これは死の気配。この気配を持つ魔獣は最も危険と言われてる。例え増援を呼んでも、無駄時にさせていまうわ。あなた達はここで待ってて。三日以内に戻らなければウリカに救援を。」

待ってくださいとランが止める間もなくマナンは静かに入山した


ウリカが私に頼んだわけだわ。マナンは内心納得していた。

死の気配を持つ魔物は珍しい。気配に触れるだけで例外なく死に至るので自然発生、繁殖することはない。なので主に人為的に生まれるのだ。魔物は人為的に生むことはできない。つまり死の魔物は魔物を創る過程で生まれたイレギュラーなのだ。この山にいるのもおそらくそれだろう。生物兵器か。死者の蘇生か。

登っていくと所々に枯れている木がある。雪を掘ると根元の植物も枯れている。死の魔物が通った獣道だ。マナンは枯れ木と気配を頼りに足を緩めず登っていく。彼女の足跡には草花が目覚め、寿命が尽きた木々は息を吹き返した。


(見つけた。)

山の中腹辺りに洞窟がある。洞窟から死の気配が濃く流れている。

どうしたものか。原因を除去するように言われている。つまり殺さなければならないのだが当然相手も抵抗するだろう。洞窟内でやると不利な状況に置かれそうだ。外に誘い込もうにもそのような道具も能力もない。

(一回入るか。いや魔物の形状がわからない。初撃を対処できるか。)

一人腕を組み山の中で迷う姿は麓に見せた真剣な表情から普段の顔へともどっていた。

そうこうしていると洞窟から物影が見えた。即座に構える。さて何が出てくるのか。

最初に見えたのは足だ。右足だ。一歩歩いた。獅子のように忍び足ではない。かといってドラゴンのように重みのある足音ではない。サルの足に近い。頭部が出てきたが思っていた以上に小さい。まるで人のようだ。というか人だ。人の頭部だ。暗くて姿形は見えないが人が前傾姿勢になって出てきた。

骨格からして男。身長はヒイラギと同じくらいか。彼(仮称)は立ってはいるがおぼつかない。フラフラと洞窟の入り口を行ったり来たりしている。

(死者の蘇生か。愚かなものだ。・・・私が言えたことではないか)

マナンが彼に忍び寄り寝首を搔こうとする。だが、グリとマナンを捉える。彼の目には夜よりも黒い気が宿っている。マナンに近づく。警戒して動けない。彼の右腕が上がり、手には気が集中する。

気が形成され、棒状に、先端が尖り、槍となった。

(来る!)横に避けた途端、彼女の足場だった地面が抉れる。彼の猛攻は息つく間もなく襲い掛かる。

攻撃を避けながら、槍で傷ついた周辺を見る。木々は傷ついた途端、生気を吸われたかのように枯れていく。(雑な槍だが直撃すれば即死か。)マナンは未だに冷静に分析する余裕があった。


猛攻が止まる。槍が消滅する。(戦い方を変えた。)マナンは結論を導き出す。魔物ではないと。

漏れ出ていた気は彼を濃密に覆っていく。霧のようなそれは形を成して体になる。細い腕は黒く、太く、獣のように鋭くなる。胴も足も一回り大きくなる。ボロボロの姿から黒い虎のような野性的な姿に変貌した。鋭い視線でマナンを捉える。自分の鼓動、呼吸が一段と大きく感じる。瞬きする間もなく彼の爪がマナンの目に届く。反射で避けるが目元に擦れる。即座に彼を探すが右目の周りに激痛が走る。

「あああああああ」喉の奥から声が出る。右目を抑えるが痛みは治まらない。むしろじわじわと広がっていく。火傷のような熱さではなく痛覚が生命の危機を叫んでいるようだ。遂に右目から光が消えた。このままでは全身に広がる。しかも彼はまた私に襲ってきている。激痛の中でも気配で彼を捉えることができた。彼の爪はマナンの首に目掛けて襲い掛かる。突如マナンから光が放たれる。月光に負けない輝き。熱は太陽のようではなく、人肌に優しく撫でる心地だった。しかし彼は焼かれたように苦しみだした。黒い体から湯気が出ている。ズルリズルリと体が剝がれていく。暗くて見えなかったがやはり体は細くボロボロだった。顔も幼く感じる。

「相性は最悪だったようね。」言葉が通じるか期待していないが話しかける。

傷の浸食は止まったが顔の右半分が紫色に爛れている。髪の毛も前髪が中途半端に抜けてしまった。

光を手に集め、爛れた顔に当てる。変色した皮膚が光に触れる。すると時間が戻ったように皮膚が元に戻っていく。右目が光を取り戻す、抜けた髪は長さはバラバラだが生え始めた。

「この顔気に入っていたけど仕方がないわね。」伸びた前髪を耳にかける。

「どう・・・して」彼はか細い声で言った。マナンを不思議そうに見ている。

「アレが・・・神さま」そう言い残して意識を失う。神様と言われても動揺を見せないマナンは彼を回収した。


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