インスピレーション5
「別にいいだろ。俺と付き合えるし、デートもできるし、楽しいだろ」
「楽しくない」
「おまけに占い師としても育ててもらえる。一石二鳥だろ」
「それはあなただけ。二鳥もいらない」
「ふーん、そうか? 俺は楽しいけどね」
「あなたはそうかもしれないけど、あなたのインスピレーションのために利用されるのは嫌」
「いいだろ、別に」
「嫌です」
「わがままだなあ」
「どっちがよ。相手に好意を持って付き合うのなら分かるけれど、インスピレーションを補うためなんて、ふざけすぎてる」
「どこが? 誰だって付き合うなら、見返りを求めるだろ。お前は俺に育ててもらえる。俺はお前からインスピレーションを吸収できるかもしれない」
「勝手よ。それはあなたはそういうことを望んでいるかもしれないけれど、代償で育ててもらいたくない」
「持ちつ持たれつだろ」
「どこがよ。あなたはそれでいいかもしれないけれど、付き合わされるほうはいい迷惑よ。だって、インスピレーションが弱くなったら、『はい、おしまい』で、終わりの関係でしょ」
「まあ、確かに、そういう子もいたけれど、真珠はその辺、未知数だから長く付き合えそうだ」
「そういう問題じゃない。あなたの道楽に振り回されるのはたくさんよ。親切で教えてくれているのかと思ったら、ライバルに育てるため。デートに誘うのは女性として魅力があるわけじゃなくて、インスピレーションだけ。ふざけるにも程がある」
「そうか、別に普通だろ。お前のどこにそれほど魅力があるんだよ。女性として」
「バチン」と音がするぐらい東条さんの頬を叩いた。
「痛いだろ、何するんだよ」
「グーで殴ってやりたいぐらいよ。運転中じゃなければね」
「お前、鏡を見ろよ、俺とどこがつりあうって言うんだよ。それぐらいしか取り得ないだろ」信号で止まったので、こぶしで東条さんの腕を思いっきり殴った。
「痛いだろ」と言ったけれど、車から降りた。そこから、歩道まで歩いていたら、東条さんが運転席から降りていて、
「おい」と声をかけてきたけれど、歩道まで行ってから走り出した。
「あいつ」東条さんは信号が変わるかもしれないので、車に乗り込んで、
「何を怒ってるんだか」と呆れていた。