落ちた理由4
「言葉が少ないな」と東条尚毅に車に乗ってから言われて、かなり落ち込んでいたので、黙ってうつむいていた。
「元気がいいのは世間知らずだからかもな。言いたい放題言えるのも今のうちかもな。世間はそこまで甘くない。自分の未熟さを分かるから、人にとやかく言えなくなるね。学生だから許してもらってるだけってことに気づいてないからな」そのとおりかもしれなくて、かなり落ち込んでいて、
「これから勉強していけばいいだろ。せめて、女性のなりたい職業の実態だけでも調べておけば。そこから、やってけよ」
「あなたは知ってるの?」
「それなりに勉強中」
「どうやって?」
「人に聞くんだよ」
「人?」
「本でも人でも調べたらいいだろ。自分でね」そっけなく言われて、
「冷たい性格なんだ」
「わざわざテレビ局まで連れて行って、教えてやった恩人にその態度はないだろ」
「ごめん」と謝ったら、
「少しは素直なところもあるんだな。人のことを馬鹿にする前に自分を見直せよ。未熟な部分を直してから言えよ」
「あなたは未熟じゃないって言うの?」
「お前よりね」見下す言い方が気に食わなくて、そっぽを向いた。
「お前のその態度は目に余るな。サバトでは無理。一生無理かもな。素直な性格の子がいいね」
「歴代合格者ってそうなの?」
「自分の目で見て確かめたらいいだろ。それから言えよ」
「え、でも」サバトでの合格者が多く働いている、占いの館「プロキオン」には行ったことがない。誘われても断っていた。なんだか行きにくかった。母が東条圭吾を嫌っていることは分かっているからだ。
車から降りて、お礼を言った。
「ありがと」
「もっとよく勉強しろ。ガキの遊び場じゃないからな」ちょっと見直したのに、その冷たい見下した言い方が気に入らなくて、
「二度と会わないでしょうけど、ありがと。あなたみたいな人はいつか女性に刺されるよ」
「モテてから言えよ。世間知らずなガキ」と言われて、にらんでいたら、
「じゃあな」と行ってしまった。家に帰ったら、
「あの車は誰?」と母が見ていたらしく聞いてきた。仕方ないので、本当のことを話したら、
「あの男に近づいては駄目よ。息子も同じ。世間で騒がれてるからって、本が売れてるからって、天狗になってるだけの男よ。お金のほうが大事な男なのよ。そんな男が代表になってるあんな変なところに所属なんてしなくてもいいわ。他の団体にしなさい。それか、全然別の職業を選びなさい。堅いところに就職して」
「その話は聞き飽きた。お母さんだって、堅い職業のところでも人間関係で疲れきってる人をいくらでも見てきたじゃない」と言ったら黙ったけど、母は何か思いついたらしくて、台所に行ってから戻ってきて、持ってきた塩の瓶を振って塩を私に振りまいた。
「何してるの?」
「穢れを落としてるの。あんな男にだけは近づかないで、外にもまいておかないと」と言って、すごい剣幕で外でも塩をまいているのが目に入った。瓶から直接まくのではなく、塩を手に出してからまいたほうがいい気がする。と思いながら呆れつつ、よほど、何か嫌なことでもあったのかなと考えていた。