インスピレーション3
打ち合わせが長引いて、東条さんが色々意見を言っていたので、飽きちゃったこともあって、その辺をぶらついていた。制服だから目立つので何人かがチラチラと見ていたけれど、そのうち、一人の女性が近づいてきた。私の前に立って、上から下まで見た後、見下す目で見て、
「尚毅って、趣味が悪くなったわね」と言ったのでむっとなって、
「そうですか?」と言い返した。
「駄目ね。全然駄目。私と付き合っていたときよりはるかに落ちるわ」
「付き合っていた」と言ったらにらまれたけれど、相手にしたくなくて逃げようとしたら、
「あいつが付き合ってる理由、知ってるの?」と聞かれて、
「どういう意味ですか?」と聞いた。
「言ってたわよ。インスピレーションが沸かないから、そういう女性と付き合いたいって、私は綺麗だから付き合ったみたいね、あなたとは違うのよ」と反り返って見下していた。うーん、こういうことを平気でするから嫌われたんだろうなと想像がついた。
「でも、ふってやったのよ」どう考えても東条さんのほうが飽きただけだなと思っていたら、
「ふん」私の顔を見てふてくされていた。
「自分には占い師として何かが足りない。そこが足りたら完璧なのにと言っていたわ」すごい自信。
「イマジネーションはあるけれど、インスピレーションが足りない。だったら、それが強い女性と付き合いたいってそう言っていたわ。あなたがそうみたいね」インスピレーション?
「霊感が強いってこと?」
「ひらめきですってよ。あなた強いんでしょ。占いやってるらしいわね」強いかなあ? お母さんのほうが強い時が多く、私は他の占い師が強いかどうかはそこまで見抜けない。ただ、時々強いオーラと言うかパワーを持った人はいるので、そういうのは分かるし、波長が合うとか、そういうのは分かるかもしれないけれど……と考えていたら、
「ふーん、見込み違いなの? そういう女性を探していたらしいわよ。何人かデートしていたみたいだしね」
「そうですか」
「だから、それが終わったら捨てられておしまいね」勝ち誇ったように言っているのが却って滑稽に見えた。だから、相手にしてもしょうがないと思い、
「教えてくださいまして、ありがとうございました」と言って逃げ出したら、
「絶対に振られるから。絶対に捨てられるわよ。絶対よ」何度も「絶対」と言っていて、そこまであいつに未練があるのか恨みがあるのか、私を巻き込まないでほしい……と思いながら足早に逃げ出した。