落ちた理由3
「母は東条圭吾のことは苦手みたい。だから、内緒で受けた」
「時々やっかまれるよ。派手にしてるからって理由。自分でもやってみてから言ってほしいね。結構、テレビや雑誌って大変だと思うけどね」
「母も昔そういうのに出てたみたいだけど。今は雑誌だけみたい」
「名前、なんだ?」
「ローズマリームーン」と言ったら、怪訝な顔をした。
「昔、聞いたことがあるな」
「昔じゃない。今も活動してるの」
「『ムーンフェイス』だっけ? お店の名前。あそこはルビームーンのほうが有名だろ」ルビームーンである秋さんはネットで評判になったことがある。占いサイトを立ち上げたときに、母はそういうのが苦手だから、秋さんに任せっきりだった。秋さんは知り合いに頼んでサイトを作ってもらっていた。彼女は友達も多くて、割と美人なので男の人がタダでやってくれたらしい。「一度、飲んで、代金をチャラにしてもらった」と聞いていた。
「よく知ってるね」
「そういうことは一応把握しておく主義でね。お前はよほど疎そうだな。雑誌や本とか読まなさそうだ。直感、霊感だけの占い師の域で終わるな」と言われて、にらんだ。
「そういう顔をするな。今のお前はそのレベルだよ。よく見ろよ。観察しろよ。こういうところで生き延びるには、何が必要だと思う?」と聞かれて見回した。
「え、なにがって?」何と聞かれてもよくわからなかった。あちこちで頭を下げたり、話している光景しか目に入らなかった。
「歌手だったら、どうしたら、デビューできるか、生き残れるかを聞いてるんだよ」と聞かれて、分からなかったので、
「さあ、コネ?」
「コネでデビューしたって、その後、売れなくなるケースなんて多数あるぞ。有名人の子供がデビューしたって実力がないと無理。それ以外にも色々必要だろ」
「なにが?」
「まず、容姿、それから挨拶や先輩との人間関係。先輩に嫌われると後々困るからね。力を持っている人に取り入るのも上手じゃないと」
「え、そうなの?」
「そういうのが優れてないと、すぐに干されておしまい。歌がうまくたって、引き立ててもらわないと無理な世界なんだよ。誰にも目に留まらずに消えていく人は星の数ほどいる。だから、一番重要なのは運だ」
「運?」
「みんな、かなり強い運を持ってると思うぞ。誰かの目に留まるって、中々難しいからな。ただ、見抜く目を持ってない人の場合、遊ばれて終わるケースもあるけどな。女の子の場合は」
「あなたと似たような人もいるだろうね」
「誤解だ」
「でも、とっかえひっかえなんでしょ」
「色々と勉強中」意味不明だなあと思ったけれど聞き返さなかった。
「こういうところも勉強していかないと無理なんだよ。いきなり、相手に相談されても、その事情を限られた時間で聞き出していかないといけないし、職業事情が一人一人違うから、そういう部分で知らないと相談になんてのれないだろ。『看護婦さんになりたいけど、どうしたらいいでしょう?』『先生になりたい、スポーツ選手になりたい』お前、どうやってアドバイスするつもりだ」
「えっと、それは」さすがに言葉に困って、
「ほらな。全然分かってない。そういう職業事情を把握もしてない女に占ってもらっても、薄っぺらいだけ。一からやり直せよ。俺のことをコネと言う前にね」と言われて、しばらく言葉がなかった。こいつの言うとおり、コネと馬鹿にできるほど、私は何も持ってない。何も知らないかもしれないなあ。とぼんやりしていた。