落ちた理由2
「どこに行くのよ」車に乗せられてから、聞いた。
「付いてくればわかる」
「女性受けしそうな車」思わず言ったら、
「あいにく、こういうのを乗るように親に言われているからね。それで、これ」占い師なのに高い車に乗っているのが面白くなくて、
「ふーん、庶民から搾り取ったお金で乗ってるんだ」
「お前は相当に俺を誤解してる」
「さっきの女性は良かったの? 恋人なんでしょ」
「違う。一度、食事をしようと誘われて、一緒にいただけ」とそっけなかった。
「冷たい言い方ね。あっちはうれしそうだったのに。まさかと思うけど、この間の人も恋人の一人なの?」
「ああ、彼女は見学したいって言うから、仕方なくね」その言葉もそっけなかった。
「相手の女性が傷つきそう」
「そうでもないさ。ああいう人は別の人ができたら、そちらに行ってしまうから」
「ふーん、冷めてるんだ」
「別に」
「占い師より、ナンパ師になったほうがいいね」
「女性心理を勉強するには必要な課程だ」
「は?」
「お前も付き合ったほうがいいぞ。ああ、無理か。お前の場合は今まで彼氏がいなかったタイプに見えるから」
「勝手に決め付けないでよ」
「じゃあ、いたのか?」
「い、いないけど、それがどうしたのよ」
「ほらな。ただ、言い返すだけ。世間知らずもいいところだ。ちゃんと世間を知ってから、俺のことを言えよ。お前は何も分かってないからな」
「あなた、いくつよ」
「大学生だよ。21」
「ふーん、年寄り」
「ガキが何か言ってるよな」
「失礼ねえ、これでも17歳よ」
「まだまだだよな」
「うるさいわねえ。いい就職先が決まって良かったわね、せいぜい、いっぱい女性と付き合って、遊べばいいんじゃないの。この車なら、いくらでも寄ってきそう」値段は分からないけれど、青い外国の車で、高いんだろうなってことは内装を見たら分かる。母が乗っている庶民の車とは大違いだった。占い師として成功するとこういうのにも乗れるんだなと驚いたけれど、正直、面白くなかった。
「遊びじゃないさ。資料集め」と訳の分からないことを言っていたけれど、目的地に着いて、駐車場で警備員に止められて、相手に色々と説明をしていた。
「何で、テレビ局?」中に入ってから聞いた。駐車場では父親の名前を出して、電話で誰かに連絡を取って入れてもらっていた。
「コネって、すごいね」
「テレビ局に来たことはないのか?」
「ない」
「スタジオ観覧ぐらいしておけよ。占い師を目指すならね」
「どうしてよ」
「占いにやってくる女子高生の悩みに『芸能人になりたい』って言うのは、結構多いからな。知っておいたほうが何かといいさ。それでよく占い師になるつもりでいるな。友達にでも聞けよ。業界の話でも、現実を知ったほうがいいし」
「現実?」と聞き返した。
東条さんが知り合いのテレビ局の人に挨拶して、見学したいことを告げて、その後、二人で歩いていた。あちこちで知った顔がいた。有名な歌手やグラビアアイドルにお笑い芸人。頭をぺこぺこ下げていたり、誰か有力者が来たら、慌てて、
「わあ、○○さん」と声のトーンが明らかに高くなって擦り寄っている光景を何度も見てしまった。楽屋の入り口が空いていると、中で台本を読んでいたり、楽屋の外で、何か打ち合わせをしている人がいたり、色々だった。
「忙しそう」
「そうでもないさ。待ち時間っていうのがあるし」
「東条さん、こういうところに出入りするのは多いの」
「尚毅でいいさ。みんな、そう呼んでいるし」
「えー、呼びにくい。一応、年上だし」
「お前のほうが呼びにくい名前だろ。珍しい名前だな」
「何で名前を知ってるの? 私はあなたのことは知らないのに」
「興味があったから調べただけ」
「興味?」
「あまりにお粗末な内容だったけど、印象に残ったから」印象ねえ。
「真珠って、初めて聞いたよ。何で、その名前なんだ?」
「母がつけてくれたの。6月生まれだから誕生石の真珠。姉は4月生まれだから」
「ダイヤか?」
「誕生石がダイヤモンドだから、輝子。輝く子と書いて輝子」
「ふーん、変わった親だな」
「占い師だから神秘的なことが好きらしくて」
「占い師の娘なのに、練習もせずに受けたのか」と驚いていた。