分からない男3
「多面性なのはみんな同じだろ。お前だって、先生の前、親の前、友達の前、同じ顔で接しているか?」と聞かれて、そう言われたら、言葉遣いも何もかも違うかもしれない。
「怖い先生と気さくで友達感覚で話せる先生と態度が変わるだろ。それと同じ」
「煙に巻かれている気がする。説得力があるような、ないような」
「みんなそれぞれ、多面性を使い分けてるよ。無意識にね。一度、心理関係の本も呼んでおけよ。男性心理も分かってないみたいだしな。神宮寺ってやつも苦労していそうだ」
「それは言わないで。悪いなって思ってる。今日だって誘われてたけれど、断ったのに、こんなやつと一緒にいるから悪くて」
「こんなやつと言うな。あいつより俺のほうが楽しいぞ」
「楽しくないよ」
「これだけ話しておきながら」
「あなただと、つい言ってしまうだけ。神宮寺と違う」
「友達止まりだろうな、あいつの場合は恋人になるなら、お前の憧れがぶっ壊れた後しか無理だな」
「ぶっこわれ?」
「そう。お前は振られたり振ったりした経験もなさそうだ。表面だけ見て、相手を好きになったつもりでいるだけ。本当に好きだったら、もっと早く言ってるね」
「本当に好きだから、却って言えないもんじゃないの?」
「言えないうちは本物じゃないね」と言い切っていた。こいつと話してると何だかおかしくなってくる。
「ずれてる」
「お前のほうが分かってないだけ。経験不足な真珠ちゃん」
「馬鹿にする言い方をしないでよ。あの人たちと同じなんだ」
「誰だよ?」
「あなたの友達」
「その話は禁句。あいつらは怒らすと面倒なんだよ。今まで、色々あったみたいだからな」
「色々って?」
「お前の学校にはいないのかもな。あいつらは親が金持ちだから、有力者とのつながりも強いから、色々あっても話が表ざたにならないからね」
「親がもみ消してるってこと? 信じられない。どういう人たちと付き合ってるのよ」
「そこまで深くは付き合ってないよ。誘われたときに、時々参加する程度。他の友達とも広く浅く」
「男性も同じなんだ?」
「一人に縛られないだけ。俺、人気があるから」駄目だ。こいつはとことんおめでたい。
「幸せな男」皮肉をこめて言ってみたけれど、
「ありがとう」と平気で言い切っていた。駄目だ、つけるクスリがない。