分からない男1
バイトが休みの日に、東条さんが突然やってきて、
「出かけるぞ」と言ったので、
「疲れた。今日は無理。それに出かけようかなと思ってたし」
「約束してるのか?」
「日時は指定してない。『いつか、行きます』って言ってある」
「ふーん、じゃあ、俺に付き合えよ。時間が空いたし」
「あなたの時間を埋めるために、私を使わないで。他の女性で埋めてください」
「だから、言っただろ。そろそろ、やめようと思ってるって。本命候補を育てておかないと」
「候補は何人?」
「一度に何人も無理だよ」と言ったので、
「今まで何人を育ててきたのよ?」と聞いた。
「そうだな」と考えていて、
「はいはい、思い出せないぐらいなのね。あなたには付き合いきれないよ。道楽でやられても困るからね」
「そうか? 彼女に昇格するまで、時間をかけているだけだし」
「今まで、本命なんていたの?」
「うーん、そう言われると少ないかもな」
「浅木さんもそうなんでしょ」
「いや、彼女はそれほど長くないよ。大学に来てからの付き合いで、何人かが誘ってたけれど、俺とだけ付き合ってくれたし」
「さりげなく自慢しないでよ」
「俺、モテるからさ」
「かるーい人だね」
「それより、出かけようぜ」
「溜まっていた家事があるんだけど」
「母親がやるもんだろ」と聞かれて、ため息をついた。