厳しい世界4
「あら、それぐらい当然よ。役が小さくても、役の取り合いなのよ。仲間同士に見えて、ライバルでもあるから複雑なの。同じ事務所に登録していたって、友達になんて中々なれないしね」
「どうしてですか?」
「足の引っ張り合いは同じ事務所でも、いくらでもあるからね。スキャンダルをでっち上げられると困るから、同じ仕事をしている人には自分の弱みは見せられないのよ。そういうことを言わないような人に打ち明ければいいと思うじゃない? ところが浮き沈みが激しいから、数ヶ月で立場が逆になってしまうことも多々ある。そうなると、自分が下になったら面白くないからって、腹いせで嘘の話も混ぜて知り合いに教えてしまうの。そういうのを記者が目ざとくかぎつけて、記事にされてしまう。もっともらしく書いておいて、嘘が混じっていても、相手に怒ってもまともに聞いてもくれないし、釈明もできないからね」
「そうなんですか?」
「噂が一人歩きするような状態がいくらでもあるものなのよ。大変なのよ」と言われて、考えてしまった。
「それに芸能事務所も数え切れないぐらいあるしねえ。大きいところに所属したいと思っている子は大勢いるけど、中々難しいからね。プロデューサー、ディレクターの前だところっと態度が変わる子もいくらでもいたわよ。ほら、あの有名な」と名前を出していたけれど、友達が喜びそうな話ではあるけれど、本題からずれているなと思い、適当に流して、
「オーディションなどはどうでしょう?」と聞いた。
「アピール合戦になるわね。いかに強く印象に残すか、いかに自分を売り込むかが勝負よ」
「選考者に合わせるってことですか?」
「それはあるわね。選考している人によってどこを気に入るかってことは計算するわよ。役柄に合わせて服装も選んでいくし、メイクも変えるし、かつらもつけたことがあるわ」そこまでするんだ。
「大変ですね」
「これでも、若いころは女優志望だったからね。結婚してやめちゃったけれど、やっぱり楽しくてね」と言っていたので、それだけ魅力がある世界なのかもしれないなと思った。