サバト4
「落ち込む」友達の怜奈ちゃんに笑われた。
「多分、無理だと言われてたんでしょ」秋さんにそう忠告はされていた。それぐらい、入る人数は少ない。毎年、一人か二人。その一人があの嫌味な男だと思うと面白くない。親のコネ男。
「いいじゃないの。どうせ、世の中そんなものだって。親のコネ、有力者とのつながり。有名大学に進学したって、そこでもコネだって。いとこの医学生が言ってたよ」
「雪人さんは違うもの」
「はいはい、あこがれの大学生でしょ。はやくデートに誘いなさいよ」
「無理だよ。勉強でいそがしそうで」
「それでもデートはできるでしょ。それだから進展しないのよ。自分から行かないと」
「でも、真面目な人だから、どう誘ったらいいか」
「迷っているうちに卒業しちゃうよ」
「そう言われても」
「ちゃんと告白しないとね。好きだったら」
「言えないよ」
「男子の友達だって何人かいるでしょ。それと同じよ。みんな、かぼちゃかジャガイモと思えば緊張しないよ」
「怜奈ちゃん。かわいい顔をしてそういうことを言わないで」怜奈ちゃんはかわいいのでモテるけど、実態を知られるとうまくいかなくなる。
「いいなあ、恋愛遍歴が派手で」
「それはしょうがないって、真珠は誘えない」
「どうして?」
「見透かされそうで怖いってさ。男子が言ってた」
「なんで?」
「抜け抜けな性格なのに、妙に勘がいいから。しかも占い師の娘。それで、さすがに誘えないって。浮気がバレるだろうしってさ」
「抜け抜けの性格って何よ」と言い合っていたら、神宮寺に背中を叩かれて、
「遅刻するなよ」と言われて、先に歩いて行ってしまった。
「痛いなあ。あいつ、乱暴」
「気があるみたいだよ。そう聞いたから」
「まさかあ」
「真珠はそういうのを信じないねえ。ガードが固い」
「固くない」
「好きな人にはガードを低くしておくものだよ。それ以外は高めに設定」
「そんなに器用なことはできない」
「全部に低くしてたら、変なのまで来ちゃうからね」
「かわいいからって、余裕だね」
「いいじゃない。本当のことだし」怜奈ちゃんはさっぱりしてるけど、はっきり言ってしまうところがある。
「あいつ、A組のかわいい子と付き合ってたじゃない」
「短期でね」
「振られたんだ?」
「逆。振ったらしいよ」
「もったいない」
「いいじゃない、付き合っちゃえば」
「何で、そう安易に薦めてくるの?」
「免疫つけてから本命に行くのも悪くないと思うよ。いきなり本命だと緊張しすぎて失敗しそうに思えるんだよね。真珠の場合」
「そう言われても」
「真珠って、結構ドジだし、鈍いところもあるしねえ。それだと男に幻滅されるよ。だから、慣れておかないと。一回目のデートの印象で決まるんだからね」
「え、そうなの?」
「これだから、デートしたこともない子は困るね。中学のときに免疫をつけておけば良かったね」
「そう言われても」
「数こなせば、本命のときに楽だよ」
「怜奈ちゃん。こなれすぎ」
「その分だと、まだまだ先になりそうだね」
「なにが?」
「恋愛成就。人のことを占ってる場合じゃないでしょ」
「そう言われてもねえ」
「第一希望に振られたからって、次を探せばいいでしょ」
「第一希望?」
「就職先」
「違うよ。修行先。知り合いの占い師の子供があそこを受けるって聞いたから、行ってみただけ。受かると思ってなかったし。でも、厳しかった。みんな、上手だった」
「感心してる場合じゃないでしょ。高校卒業したら、占い師として身を立てるんでしょ」
「そこまでは。ただ、みんなに向いてるって言われたし」
「安易だね。自分で決めたんじゃないの?」
「成績だって、いまいちだしねえ。進学するにはお金がなさそうなんだよね、うち」
「占い師って、よほどもうからないんだ?」
「ピンきりらしいよ。儲かる人もいれば、貧乏な人もいるって」
「真珠のお母さんって、そこそこ売れてるんでしょ」
「ちょっと前までね。東条圭吾がテレビに出だしてから、お客が減ったとぼやいていたから」
「私も名前を知ってるぐらいだしねえ。クラスメイトも何人かあそこに遊びに行ったらしいよ」
「占いは遊びじゃないよ」
「それぐらい気楽に行ってるってことでしょ」
「でもねえ」
「どうして落ちたのかは考えておいたほうがいいよ。それから、新しい就職先を決めたら」
「修行先だってば」と言いながらためいきをついた。