先生の正体4
「ひょっとして、お前、知らないのか?」
「なにを?」
「あの人、近所の人たちはほとんど知ってると思うぞ。お世話になってるし」
「お世話? 占いで?」
「違う。あの辺りいったいの土地はあの人の所有だから」と言ったので、さすがにびっくりして、
「えー!!」と大きな声を出してしまった。
「あれだけそばにいて知らないなんてな。誰も教えてなかったんだな」
「全然知らなかった」
「だから、それで偏屈と言われてしまうんだよ。かなりの金持ちだと思うぞ。俺のところもあの人の所有だったからな。母があの人のところから買ったんだよ。でも、駐車場はあの人の土地を借りているから」
「知らなかった。だから、お金を」と考えてしまった。それを知っていて、お金の無心に来たんだな。
「いくつかビルを所有してるはずだし、あそこ以外に部屋を持ってると聞いてるよ。でも、住んでいるところはあそこだしね」
「そうなんだ。どうして、あそこに住んでいるんだろう。建て替えてもいいのにね」
「さあな。みんなが聞いても答えない。本人がそうしたいのならいいんじゃないか。ただ、俺なら、ビルの最上階に住んで、毎日パーティーでも開いて楽しむけどな」
「あなたと同じにしないでよ。先生はあなたとは違うだけ」
「そうかもな。占いをやってる理由も暇つぶしだっていう人もいるけど、多分、好きだからだろうな」
「そうなんだ。なんだかびっくりだね。お金持ちなのに、そういう部分は気にしないんだ。本当のお金持ちって見栄を張らないんだね」東条さんを見たら、
「俺を見て言うな」と怒っていた。
「だって、あの辺りの土地って高そうだし」
「確かに収入はすごいだろうな。管理してくれる人がいるって聞いてるし、手元にお金なんて置いてないって噂だからな。全部、貸金庫に預けているだろうしね」そう言われたら、わざわざお金を下ろしに行っていたなと思い出した。
「お孫さんが来てもうれしそうじゃなかった」
「それはあるだろ。自分に懐いて来てくれるのなら喜んで出すだろうけど、お金だけのために来ているような娘だって、噂になってたからな」
「なんだか、色々あるね」
「お前もあるのか?」と聞かれて黙った。
「旅行ってどこに行くんだ?」
「東北」
「東北? 海外じゃないのか? 買い物したりするのかと思った」
「あなたと一緒にしないでよ。ちょっとね」
「まさか、雪人って人のところに行くつもりか?」と聞かれて黙った。
「やめておいたほうがいいぞ。あの人、お前は二の次だ。研究に時間を取って、お前とデートすらしなさそうに見えるな。そういう相手だと寂しいぞ。電話だって掛けてくれないだろうし。俺ならしてやれるけど」
「いいよ、あの人の笑顔を見ていられるだけで」
「かわいいこと言ってるよな。女の子発言してるよ、意外」
「うるさい。相手に合わせているだけ。あなたには憎まれ口しか言えないのは、あなたがそうだからよ」
「神宮寺は?」と聞かれて考えてしまった。
「さあ、どうだっけ?」
「あの後、何か言われたんだろ」こういう勘が鋭いところが嫌だなあと思っていたら、
「当たりだ」と笑っていた。
「あいつから始めるのも悪くないかもな。その後、俺に乗り換えてもいいし」
「絶対にありえません」
「意地張っちゃって、うれしいくせに」
「うぬぼれが強い人って、懲りないんだね」
「楽しいぞ、俺と付き合うとね」ウィンクしていて、
「どれだけの女性にしてきたか分かったものじゃないね。あなたの未来だけは読める。いつか、刺される」
「視線だろ」と笑っていた。