バイトの理由1
東条さんから提案されたことを親に相談した。見習い料金で占いを始めるように言われたからだ。
「学校でもお金を取る気なの?」
「それは無理でしょ。問題になるから。お客さんとしてここに来てもらって、練習代として払ってもらうようにと言われて」
「誰に」母がにらんだ。仕方なく事情を説明した。東条さんの大学の学祭で占いでの協力を頼まれたこと、そのために練習が必要なことも。
「駄目よ。あの男に関わっては駄目」と怒られたけれど、宣伝のために必要だと説明した。
「あの男がそう言ったの?」と聞かれて、
「確かに癪に障るような男だけど。背に腹は変えられない。宣伝になりそうなことならやってみたいし。練習も積んでおきたいから」
「学校を卒業してからでもいいでしょ」
「お金を貯めたいの。一日でも早く」
「なら、ちゃんと就職して」
「お父さんを探したいから」と言ったら母が黙った。
「お金を貯めて時間を作って、ちゃんと探したいの。だから」とうつむいた。
「真珠」母が名前を呼んだ後、黙ってしまった。
「ここにお客さんを増やす必要があるし、私も経験を積みたいの。だから、お願いします」
「真珠。お父さんがいなくなって、もう、何年も経ってるのよ」
「分かってるけど、でも、気にするなと言われても気になるの。お父さんがいないままなんて耐えられない」
「真珠、あなた」と言ってから、
「しょうがないわね」と母が言ってくれて頭を下げた。
学校には先生に相談して、先生は渋々了解してくれた。今までのは家での手伝いをするという報告しかしていなかった。
「そこに行く生徒が増えるのはどうかと思いますが」と女の年配の先生が目くじらを立てていたけれど、先生が事情を説明してくれた。父を探すためにバイトをしていることを。学校にはやむを得ず本当のことを話しておいた。
「そう、そうだったわね」とその先生もそれ以上言えなくなっていた。