必要な場所5
東条さんに連れられて一緒に歩いていた。街角で占い師が誰かを占っていた。相手は学生だろうなと思える年で、私より若いかもしれないなと思った。少しだけ離れたところで東条さんが止まった。それで、「会話してるような振りしろよ」と小声で言いながら、そばでその人たちの声を聞いていた。占い師が女の子を何度も叱っていて、「馬鹿だねえ。ちゃんと言わないと」「駄目だよ、それじゃあ」と何度も怒られているのに、女の子はうなずいていて、最後は泣き出していた。
「泣くんじゃないよ」と慰めながら、色々と説教をしたりアドバイスをしていた。
「あれって」さっきの二人からかなり離れてから東条さんに聞いた。
「占い師でも色々いるんだよ。人生相談や子供の相談相手までね。ああいう子があそこに行くのには訳があるんだよ」
「どんな訳?」
「いい親、いい家庭ばかりじゃないからな。中には親が暴力を振るう、無関心、そういう親もいるからな。成績だけで判断したり、兄弟と比べたり、親の基準に合わないと見捨てられたり。家出していたりする子はプロキオンにはあまり来ないしね」
「そう。でも、何で、あの子は叱られても怒らないんだろうね」
「逆。叱ってもらいたいんだよ。親が無関心な家かもしれない。他の誰かにかまってもらえるのがうれしいってこともあるんだろ」
「そうなの?」
「怒ってもらったり、話を聞いてもらったり、それだけでうれしいんだろうな。受け止めてもらえたと思えるんだろうし」
「え、どういう意味なの?」
「家に帰っても、親と会話がないところもいくらでもあるんだよ。携帯で連絡さえ取れたら、それでいいと言って、家に帰らない子もいるからな。お前の学校にはいないのか?」
「夜遊びがすごいらしいと言う噂は聞いてるけど、話したこともない。学校でもほとんど話さない子がいるから」
「じゃあ、その子もそういう事情があるのかもしれないな」
「そう」
「受け止めてくれる場所があればいいけど、そういう人も場所もない人だと、ああやって話を聞いてもらうんだよ」
「先生に相談するとか」
「それは無理だろうな。先生にお前、家庭の事情を話せるか?」と聞かれて首を振った。
「そうだろ。自分の名前も知らない人だから言えるってこともあるんだと思う」
「そう言われるとそうだね」
「カウンセリングとか相談所とか日本だと通うのに抵抗があるけど、占い師だと芸能人や有名人も通っていたりするだろ。それで、抵抗が少ないんだろうな」
「相談する場所として必要ってことなの?」
「自分ひとりで解決できなくても、話だけでも聞いてもらいたいものだと思うけど」
「あなたはどうして分かるの?」と聞いたら黙った。
「女性と多く付き合ったから分かるの?」
「お前より年上だからな」
「そう?」
「お前も経験を積め。視野を広げるところからやらないとな」
「分かってるよ。さすがに気軽に占えなくなったから。今は断ってる」
「占えばいいだろ。練習を積んでもらう必要があるからな」
「え、どうして?」
「人前で占ってもらうことになるから」と東条さんがにやっと笑っていた。嫌な予感がする。