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Fortune-teller  作者: marimo
迷惑書留
265/266

言わないでおこう2

 帰りながら、

「お前は灰野さんに追いつける日が来るといいな」と言われてしまった。

「あの人は、あの人。何者でもない。誰にも真似は出来ない。生きてないような」

「失礼だぞ」

「えっと、言い方を間違えただけ。えっとね、あの人の実態はあそこにあるけれど、時々そこにいないんじゃないかと思える。意識だけね」

「え?」

「意識をどこかに飛ばしている気がする。そのために疲れやすいんだろうね。大変そう」

「ふーん」東条さんがかなり黙ってしまい、

「なに?」と聞いた。

「昔、ちょっとだけ、聞いたことがある。あの人の父親の話」

「父親?」

「母親と何かあったみたいだ。刑務所がどうとか」

「え?」

「内緒だけどな。膳波さんがそう口を滑らしていた。だから、あそこから追い出したと」

「プロキオンのこと?」

「ああ」

「そう」

「だから、本名を名乗れないのかもしれないな」

「そう。大変だったんだろうね。子供にはそういうことは関係ないのにね」

「そうだな。親の事情は親だけで解決してほしいものだ。子供を巻き込むのは良くないよな」と言っていた。

 自分の腕のにおいを嗅いだ。さきほど、灰野さんに塗香を塗ってもらった。蒲生さんのお母さんの話を聞いて、そうしてくれた。相手は反省する日が来たとしても、かなり先になり、その間、うちに八つ当たりをしてくるだろうと言われてしまった。

「蒲生さんって、うちに八つ当たりしている場合じゃないのにね」

「無理だ。お前たちのせいにしたいんだ。お前たちがいなければ、罪が発覚しなかったと思っている」

「母が怒ってた。あの後、電話があり、嘆願書をね、依頼と言うか命令して書いてくれって。私のせいでああいうことになったから、書く義務があるとかなんとか」

「呆れるな」

「母が言ってたの。十分反省してからにしてくださいって。そうしたらね、十分反省したし、息子も辛かったに違いないから、それぐらい大目に見てくれてもいいとか、なんとか言っていたらしくて」

「つくづく疲れる母親だな。同情してもらおうと言う魂胆なのは分かるが、反省してないから、お前を襲ったとは分からないみたいだな」

「『なんでも都合よく考える人』って、母が切り捨てていた。『息子はあれだけつらい目に遭ったのだから、それで、もう時間も経っていることだし、早めに示談をして切り上げましょう。それで嘆願書を書け』って。ああ、弾丸届と、まだ言ってたみたいだけれど」

「頭が固そうな母親だな。慰謝料を払えるのか、それで」

「え?」

「かなりの金額になると思うけれど。保険のことでももめそうだ」

「保険?」

「自動車事故だからね。保険が出るかもしれないし」

「困ったな。姉がそれを聞いたら、喜びそうだ」

「金額は言わないほうがいいな。もしくは借金があって、そちらの支払いに使ってしまったとでも言っておけよ。そうじゃないと『全部くれ』と言い出すだろうな」

「え、そこまで図々しいかな?」

「会社で恥をかかされた慰謝料だと言いだしそうに思えるけれどな。お姉さんと蒲生さんのお母さんはいい勝負だ。自己中でね」

「そう」

「どうした?」と聞かれて、自分の腕のにおいをまた嗅いだ。姉のああいう部分に触れたくなかった。

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