毛皮を着た理由7
「でも、良かったな。お父さんの荷物だけでも戻るのだから」
「そうだね。お父さんのスケッチブックは見たいな」
「そうか」
「今度の旅行でね、改めて思ったの。お父さんはどういうところで何を考えて、ああやって旅行してたのかなと思って」
「父親の見えていなかった一面ってことか?」
「そう。家族でも知らない部分って、いくらでもあるね」
「俺も知らない。親父がどういう女性と付き合ってきたか」
「それは知らないほうがいいでしょう。親の恋愛事情を知りたくない。生々しくて、嫌」
「親は親であってほしいってことか?」
「あなた、知りたいの? 私の母とあなたの父の間に何があったのか」
「聞かなくても分かる。親父がお前の母親と付き合い、そうして、捨てた」
「え、捨てられたの?」
「そうだと思う。親父はそう言うところで冷たい。お前の母親を好きになったのも俺と同じ事情かもな」
「事情って」
「勘だろ。親父にない霊感の部分。親父はそれに憧れた。そうして恋に発展」
「それだけで?」
「憧れが強いんだ。それだけうらやましいと思っている。そのために愛情と混ざった。親父がお前の母親をどこまで好きだったかは分からない。ただ、親父は自分以上に女性を愛することはしないと思える」
「ふーん、そう言う人なんだ」
「お前のその勘は血として受け継がれていくものなんだな。俺の先祖はそう言うのがなかったんだな。残念だ」
「知らないよ。おじさんも母も持ってるけれど、お姉ちゃんに出てないよ」
「それはあれだろう。欲が深い人は勘は鈍る」
「え、どうして?」
「どうしても自分に都合よく考えすぎるからだ。冷静には考えられないし、見られないから。そう言う人だと、難しいだろう」と言われて驚いた。
「そういうもの?」
「さっきのプロ野球の予想と同じだ。欲得、ひいきしたい、そう言う感情が絡むと見えなくなりやすい。だから、無理」
「なるほどね」
「そう言えば、嘆願書は書かないほうがいいからな」
「書けないよ。反省しているかどうかも分からない段階だよ」
「普通はこの段階で頼んでこないんだけれどな。傷口に塩を塗るようなものなのに。あの人はそういうことも分かって無くてやっている。だから、子供もやりきれなくなるかもね」
「え?」
「親の思い込みが強いと子供はつらくなる」まるで自分のことのように言ったので、思わず東条さんを見た。
「あなたのおかあさんって」
「ああ、そう言えば、灰野さんのところに挨拶に行こう。無事だったことを知らせておかないとね」ごまかすように言ったため、それ以上続けられなくて、
「そうだね。あの人が教えてくれなければ、危なかったかもしれない」
「同感。あの人の予言があったから、俺もお前のところに行ったからな。やはり、敵わない。そう言う人だ」