毛皮を着た理由3
「このアパートと毛皮が似合わないなあ」
「それはそうだ。毛皮は売ることもできたはずだ。昔、羽振りが良かったときにご主人に買ってもらって、売りたくはなかったんだろう」
「どうして? かさばるだけじゃない」
「見栄のためだ」
「見栄のためにスペースを取るの?」
「お前は見栄を張らないのか?」
「小さいころから、『霊感女。悔しかったら、今年のプロ野球優勝チームを当ててみろ』と言われ続けているのに?」
「なるほどな」
「わざと外してやったけれど」
「わざと?」
「うーん、そう言うのって、優勝チームはともかく、今日、その試合のどっちが勝つかどうかは分かるときもあるし」
「ふーん。そういうものなのか」
「私は野球をほとんど知らないからできるって、お母さんが言ってた」
「下手な先入観がないってことか。ひいきのチームがないほうがいいだろうな。その場合は特に」
「そうだって。あとは『占い屋』とか、そういうことも言われ続けたよ。でもねえ、そういうやつに限って、困った時に『助けてくれ』と泣き付いてくるんだよね」
「泣きつくって?」
「問題を起こしておいて、親に怒られない方法を聞いてくる」東条さんが笑った。
「だから、『できない』って断ってやるけどね。でも、あまりにしつこいと、つい、助けちゃう。それなのに、終わった途端、忘れたかのように、前と同じように馬鹿にする態度に戻っていく。あれは変わらないね」
「そういうものかもしれないな」
「川尻さんって、どうなったの?」
「一時期離れていたけれど、やはり気が合うらしく、今もそれなりにつるんでる。ただ、ポジショニングは変わったらしい」
「え?」
「グループで強く言えなくなっているみたいだな。元木もなぜか俺に何も言ってこなくなった」
「え、そうなの?」
「親にでも注意を受けたんだろう」
「それだけでおとなしくなるもの?」
「今だけおとなしくしているだけだろう。あいつらはそういうやつらだと思うし」
「そう。ねえ、あなたって、女性以外の話はあまりしないね」
「女性の話もしない」
「お友達の話をしないじゃない」
「俺は広く浅くがモットー。それに付き合いがそれなりにあるのは若田ぐらいかな」
「へえ、いるんだ?」
「ただ、あいつは不思議な奴で、本ばかり読んでいるからな」
「ふーん、まじめなお友達もいるのね」
「俺に興味が湧いたのか?」
「違う。ちょっと聞いてみたかっただけ」本当は少し興味があった。この人が二度、宮城に来てくれた時から、なんだか気になった。