毛皮を着た理由1
東条さんに付き合ってもらって、夕方に出かけた。
「プロキオンは営業は?」
「デパートの催しとショッピングセンターのイベントと、あとは、若者向けイベントのブースに参加してる」
「儲かってるね」
「それなりに。宣伝も兼ねている。さっきまで、俺も駆り出された。女の子が列を作って大変だったんだ」とうれしそうだった。
「なんだか、心配になってきたな」
「おれのことか? 大丈夫だよ。女の子が群がっても、ちゃんと対処したから」
「違う。蒲生さんのお母さん。ああいうことをする人って苦手だ。高飛車で、なにがなんでも相手のせいにするタイプなんでしょう?」
「そうかもな。とにかく、俺たちに落ち度は一切ないから、お金を返せばいい話だ。受け取るにしても、謝罪が先だ」
「親が謝罪するものなの?」
「普通は子供に謝らせるけどな。もう、あれだけあったら、相手は謝罪どころじゃないだろうからな」
「相手のことをどう調べるの?」
「相手は一人息子だからなあ。兄弟がいたら、その素行調査というのも使えたけれど、出たとこ勝負で行こう」
「はあ、まあ、いいんだけれどね」
「俺とお前がいたら、なんとかなるさ」と言われてしまった。
相手の住所の近くまで来てから、喫茶店に入った。東条さんが、喫茶店の奥さんに、この近くの住所の話を聞いていて、アパート名を告げていた。
「ああ、あそこね」と言いながら地図を調べてくれたら、そばにいた人たちが、
「ここって、あの奥さんの家の近くじゃない?」と言い出して、その人たちが噂話を始めた。