迷惑書留1
雪人さんにおかずを持って行ったら、家に居て、
「秋田に帰ってしまったかと思ってました」
「夏に帰ったからね」
「え、でも、さみしくないですか?」
「それに嫁をもらえとうるさく言われてしまって」
「え? もうですか?」
「真澄ちゃんはどうかと言われて、断ったから」
「断ったんですか?」
「結婚する気はないから。多分、あと、10年、いや、15年ぐらいはないかもしれない」長いかも……。でも、雪人さんなら、ありえるかもしれないなと思っていたら、
「コーヒーでも入れるよ」と言ってくれて驚いた。
「え、でも、いいんですか?」
「話したいこともあるしね」と言ってくれて、中に上がった。本がいくつも積まれていた。
「すごいですね。これだけ読んだんですか?」雪人さんがやかんでお湯を沸かしてくれて、
「ああ、やりますよ」と言ったけれど、
「散らかってるから、いいよ。真珠ちゃんは座っていて」
「雪人さんは熱心ですね。同じ大学生なのに、あの人と大違い」
「あの人?」
「東条さん。やはり、将来の職業の差でしょうか? それとも私立の宝陽と国立の大学の違いでしょうか」
「そう?」と言いながら、雪人さんが用意をしてくれていて、そのあと、コーヒーを入れて戻ってきた。
コーヒーを飲みながら、
「彼と話をしたよ」と言われて驚いた。真珠ちゃんが大変な目に遭ったと聞いたから」
「いえ、大丈夫ですから」
「知らなかったから、ごめんね」
「え?」知らなかったのか。ご近所の人には興味本位な質問をする人も多かった。そう言う人はどこに住んでいる人なのかも分からないぐらいだ。顔見知りの人のほとんどが、慰めてくれる人ばかりだった。
「このところ、図書館通いや実験で忙しくて、新聞も目を通してないぐらいで」うーん、かなり真面目かも。
「いいんです。雪人さんはお勉強をがんばってください」
「僕は研究に没頭したり、本ばかり読んで、友達と約束できないぐらいだから」
「え?」
「だから、真珠ちゃんの気持ちはとてもうれしかったけれど、真珠ちゃんとお付き合いということはできないかもしれない」と言われて、驚いた。